::05

大ニュース。
何とハイハイ出来るようになりました。

今まではひたすらゴロゴロしたり、寝返り打ったりと行動範囲が数センチと酷く狭かったけれど、ハイハイを取得した事に極度な段差がある場所以外はどこにでも行けるようになりました。そして、離乳食が始まりました。


「あーうあーあ」
「ん?これで遊びたいの?」
「うー」


相変わらずニコニコ笑顔の姉は、やっぱりニコニコしながら私と一緒に遊んでくれている。
おねだりして取ってもらったのは、鞠。本当は男の人が蹴って遊ぶものらしいけれど、私はこれがお気に入りだ。
綺麗に刺繍が施してあるし、ちょっとした運動にもなる。
鞠をちょっと転がして、それを追いかける。
そしてまた鞠を転がして追いかける、その繰り返しだ。
これはハイハイが出来てやっと出来るようになった遊びである。


「ほら、あんまり行くと怪我しますよ」


そう言われて抱きかかえられる。
よくよく見れば目の前あと数センチで縁側だった。危ない。
感謝の意を込めて、頬っぺたに触れると姉はやっぱりニコニコ笑っていた。


「そうだ。小十郎の畑にでも行ってみましょうか」


姉はそう言うと「きっと喜ぶわよ」と言って、私の頬っぺたに指を突きさした。









「姉上!?しかも、名前まで!」
「今日はいい天気だから散歩がてら様子を見に来たのよ」
「だからってこんな土臭いところじゃなくても、」
「でも名前は喜んでるわよ」


姉に連れて来られたのは広くもなければ狭くもない、家庭菜園には丁度いい位の広さの畑だった。
そこには色鮮やかな野菜が太陽に照らされてすくすくと大きくなっていた。
その中で兄が汗を流し、頬を土で汚していた。

そういえば、たくさん積もった雪もいつの間にか溶けてなくなってしまっていた。季節の流れを感じる。


「しかし、名前は本当に感情豊かですね」
「本当。貴方のようにならなくて良かったわ」
「…」
「嘘よ」


ここの兄弟は姉が強いらしい。やはりどの時代も女が強いのか。
私は両手をいっぱいに兄に向かって伸ばした。
それを合図に兄が手ぬぐいで汗を拭ってから私達の元へとやって来た。


「あーあー」
「抱っこして欲しいんですって」
「ですが、今、汚れてますし」
「そんなの後で湯浴びすればいいだけの話でしょう?」


兄はうっと押し黙ったかと思うと、小さくため息をつき私を優しく抱きかかえた。
姉の柔らかい体もいいけれど(厭らしい意味じゃなくてね!)兄の細いけれどしっかりとした腕の中が好きだ。


「すっかり小十郎に懐いてるわね」
「嬉しい限りです」
「最初はやや子だって嫌っていたのに」


姉がそう言うと兄は、私の瞳をジッと見た。鋭い瞳。
けれど、その中には優しさも、強さも、悲しみも溢れているように見えるのは私だけだろうか。


「、両親が残してくれた宝物ですから」
「そうね。大切な宝物、」


そう言うと、姉は私の頬に触れた。
優しく、まるで壊れ物を扱うかのように。

それが私の存在の仕方
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -