なあ、名前ちゃんこっち向いて
私を背中から抱きしめている小春ちゃんの声が耳元で響く。そんな甘ったるい声を出されたって絶対に騙されない。私は依然としてツンとした態度のまま、特に興味のない男性ファッション雑誌を読む。(財前くんにゴミ処分だって貰ったけど役に立って良かったわ)


「この子格好ええなぁ」
「、名前ちゃん」
「この髪型好きやわぁ」
「なぁ、名前ちゃん」
「蔵くんとか千歳くんとかに似合いそうやなぁ」
「……」


これも全て小春ちゃんが悪いんだ。口を開けばユウくんユウくんユウくんって、そればっかり。確かに一氏くんは大切なパートナーだろう。それは私だって理解してる。二人のスキンシップだって黙認してる。
久々の部活のない休日にお家デートだってずっとずっと楽しみにしてたのに、ユウくんユウくん、そればっかり。
そんなに一氏くんが好きなら一氏くんとちゅーでもえっちでもすればいいんだ。(あれ、想像したら気持ち悪い)

だから私はスクールバッグから昨日財前くんに貰った雑誌を取り出して読んでいるのだ。
頭のいい小春ちゃんなら私が機嫌悪いことだって、厭味ったらしく言葉に出していることだって、ヤキモチを妬いている事だって理解しているのだろう。
それでいいのだ。小春ちゃんの頭と心の中でいっぱいになっちゃえばいい。


「なぁ、ユウくんはライクで、名前ちゃんはラブっちゅーこと、自分が一番理解しとるやろ?」


耳元で囁かれたいつもと違う、男らしい低い声に思わず全身が粟立つ。
小春ちゃんは一つ一つ単語を区切って吐息混じりで言った。まるで、えっちの最中に出てくる男の小春ちゃんだ。
すると腕をぐっと掴まれたかと思ったら気づけば私の体はベッドに埋もれていて、目の前には小春ちゃんの顔があった。


「さすがにアタシも限界やわ」


その口調はいつもの小春ちゃんなのに、ざわり、私の中の女が騒ぎ始める。
するとそれはそれはゆっくりと丁寧な動きで眼鏡をはずし、男らしい骨ばった指が私の唇を滑っていった。

20120218