じんわりと冷えた手を暖めるように、ふうと息を吹き掛ける。時間的にはまだ遅くないけれど、日が落ちるのが早く、空には星が輝いている。誕生日に貰った真っ白なマフラーに鼻まで埋める。スカートの中にも風が入り込んで、身体の全てが氷になってしまったような錯覚をおこす。それでも我が儘を言って部活を終わるのを待っているのは私だし、だからと言って決して辛い時間ではない。どちらかと言えば、帰り道に何を話そうか考えているこの時間にすら愛しさを感じる。


「名前せーんぱい!」
「ひぁっ!」


ぼんやりと空を見上げていたら、頬に伝わる冷たい感触。びっくりして振り返ったら、そこには歯を見せて笑っている赤也くんがいた。


「鼻真っ赤っすよ」
「だって寒いんだもん」
「なら待たずに帰ればいいのに」
「それは、ヤ」


名前先輩に愛されてる柳生先輩が羨ましいっす。赤也くんはそう言うと私の頭を優しく撫でた。私の方が年上なのになあ、なんて思っていたら「何をしているんですか?」と聞きたくて聞きたくて仕方なかった声が聞こえた。


「部活お疲れ様!今日も格好良かったよ!」
「名前も寒い中、待っていてくれてありがとうございます」


制服に身を包んだ柳生くんに駆け寄れば、綺麗な指が私の鼻に触れた。「真っ赤ですよ」と優しく言われて、恥ずかしくなる。


「あーあー!見せつけられちゃってヤダヤダ!」
「赤也くっ、」
「邪魔者はさっさと退散しますよ」


赤也くんはそう言うと、手を振って校門にいる仁王くんたちの元へ走って行った。その姿を見た後、柳生くんは深くため息を付いて、私の頬に両手を添えた。


「気安く私以外の男性に触れさせないで下さい」
「嫉妬してくれてるの?」
「いけませんか?」
「ううん、嬉しい」


思わず緩む頬。柳生くんは照れくさそうに、指で眼鏡を上げると咳ばらいをした。そして骨張った指が私の指と絡み合う。


「ねぇ、柳生くん」
「なんですか?」
「月、綺麗だね」
「えぇ、月が綺麗ですね」


そう言った柳生くんの顔は月の光でも分かるぐらいに真っ赤に染まっていて、思わず笑みが零れた。

20110218