血とは酷く残酷な物で、体を流れる真っ赤な液体のせいで私たちは二人寄り添い生きて行く事を否定されるのだ。たったそれだけのこと。だけど血筋を守る家からすれば重大なこと。緑と赤。闇と光。交わる事は無い二つかもしれないけれど、私たちは確かに互いを想い合っているのだ。

寮の違う私たちは人前で堂々と一緒にいることが出来ない。だからこそ、今日も今日とて図書館の一番奥の目立たない場所にいるのだ。レギュラスは婚約者がいるし、それは私にも言えること。互いの為にこの関係が人に知られてはいけない。絶対の秘密なのである。

触れ合う手と手。互いの体温が伝わっていく。私の頬を滑る骨ばった綺麗な指。その気持ち良さに目を瞑れば、全身がレギュラスのものになったような錯覚を起こす。


「僕は自分の中に流れる血が憎くてたまらない」


そう言った声は静かな図書館に消えていった。灰色の瞳に映る私は泣きそうな顔をしていた。手を伸ばしてレギュラスの頬に触れる。酷く冷えていた。私の温もりを渡すように丁寧に優しく撫でる。すると猫のような瞳が閉じていく。


「ねぇ、レギュラス」
「なんだい?」
「確かに私たちは一緒にはなれない。けれど、気持ちは常に一緒でしょう?」


私がそう言うと、レギュラスの瞳が開かれた。その瞳に映っている私は微笑んでいた。するとレギュラスも私に釣られるように微笑んだ。彼のこんな優しい表情を見ていいのは私だけだ。


「その愛らしい笑顔、僕以外には見せないでくれ」
「ふふっ。それ、今私も思ってたところ」


一緒にいる時間が長くなればなるほど、同じ事を考える事が多くなった。まるで夫婦みたいね、なんて言って笑えば、レギュラスは目を真ん丸にした後、真っ白な頬を桃色に染めた。それが可愛くて思わず笑ってしまう。


「本当に夫婦になろうか」
「どうやって?両極端の家なんだから皆が許してくれないわよ」
「大丈夫。僕たちは愛で繋がっているんだから」


悪戯に微笑んだその表情は"彼の兄"に似ていた。それを言ったらレギュラスに怒られてしまうから、ぐっと言葉を呑みこむ。


「駆け落ちにしては、少しハード過ぎないかしら?」
「大丈夫。何て言ったって、僕らは優秀だから」


自信有り気に言う彼はやはり"彼の兄"に似ていた。何だかんだ言って、やはり血を分け合った兄弟なのだ。ただでさえ長男が血を裏切ったというのに、良い子ちゃんのレギュラスが敵対する家の娘と駆け落ちしたら、ブラック家は一体どうなるのだろう。そして私の家も。


「私、子ども三人欲しいの」
「なら、頑張らなくちゃ」


額を寄せ、笑い合う。互いの吐息が触れる距離だ。するとレギュラスの手が私の頭に回り、ぐっと押される。そして触れ合ったのはお互いの唇。優しい温もりがじんわりと私を侵略していく。そして離れたと同時に、悪戯に笑い合った。

20130420
企画サイト「君と奏でる恋の詩」様へ提出