(下忍時代)



「今日の名前ちゃんのパンツはピンクー!」
「こら!ナルトくん!待ちなさい!」
「へへへー!嫌だってばよ!」


ナルトくんはそう言って歯を見せて笑うと「あっかんべー!」と残し一目散に私の目の前を去った。だからと言って私にとっては下忍になりたてのナルトくんを掴まえるのなんて容易いことで、一瞬にしてナルトくんは私の腕の中に納まった。

最初の頃は掴まると、離せ離せとジタバタしていたけれど、今では何も言わず腕の中にいる。自分の肩の高さにあるナルトくんのふわふわの髪の毛を優しく撫でてあげれば、小さく唸った。


「…やっぱり名前ちゃんには勝てねぇ」
「そりゃあ私、上忍だし」
「…でもちょっとぐらい勝率もあるかもしれねぇじゃん」
「今のナルトくんに負けちゃったら、上忍から格下げされちゃうかも」
「それでもいいじゃん」


ぷくぅと頬を膨らませて私を見上げた。空色の大きな瞳の中にきょとんとした表情の私が映っている。その色に懐かしさを感じながら私はナルトくんの額をペチンと叩けば「いってぇ!」なんて大袈裟なリアクションを取る。


「あー、何で担当上忍がカカシ先生だったんだろ!」
「なんで?カカシ先輩いい人でしょ」
「遅刻するしヤル気ねー奴のどこがいい人なんだってばよ」
「私だって下忍時代、カカシ先輩にたくさんお世話になったんだけどなぁ」
「…本当に?」
「うん、本当」


するとナルトくんは「そっか。なら俺も…」と聞こえるか聞こえないか微妙なラインで独り言を呟き始めた。ちょっと神経を尖らせればきちんと聞こえるのだろうけれど、特にそこまでする必要は無い。


「なぁ、カカシ先生から聞いたんだけどこの間彼氏と別れたってマジ?」
「…カカシ先輩は余計なことまで喋ってるのね」


ナルトくんから離れ、はぁと大きくため息を付く。どんなに私がナルトくんと仲がいいからってそんな私情まで話す事ないだろう。ドロドロな別れ方をした訳ではないからまだいいけれど、もしこれが笑えないような別れ方をしたのだったら、今の私はナルトくんの一言で泣き崩れていたに違いない。


「名前ちゃんはもう彼氏作んなくたっていいよ」
「それは一生私に独身でいろってこと?」
「ううん。俺が名前ちゃんの最後の人になるんだってばよ」
「…それ、意味分かってる?」
「俺だって子どもじゃねぇんだから、意味位分かる!」


声を荒げて言ったナルトくんの顔は耳までトマトのように真っ赤に染まっていた。こういう時に笑って話を逸らすか、真剣に返事をすればいいのか分からない。任務の時ならすぐに答えが出る癖に、こういう時には全く働かない脳が嫉ましい。


「名前ちゃんからしたら俺はまだ餓鬼かもしんねぇけど、すぐに大人になっから、だから…!」


段々と小さく震える声。俯いた耳は相変わらず真っ赤に染まっていて、不覚にも胸が高鳴ってしまった。私は金色の髪の毛に指を透す。するとまた大好きな空色の瞳に笑顔の私が映った。


20130414
企画サイト「ちいさなあしあと 」様へ提出