アイドルを目指して数年。私は社長とプロデューサーのお陰で、今ではオリコン一位を取れる程までのアイドルに成長した。たくさん辛いこともあった。たくさん涙も流した。何度も何度も辞めようと思った。けれど、私が躓いた時、いつも傍にいてくれたのは真だった。真だって辛いこともあっただろうに、常に私を気にかけてくれていた。だからそんな真に、もう迷惑をかけたくないと泣き言を言うのをやめた。なのに、やっぱり、真は気付いてくれた。

初めてのソロコンサートが始まった。武道館。ずっとずっと立つのが夢だった。一面を多い尽くすペンライトの光が眩しい。私は精一杯楽しんだ。ファンの方の笑顔を見るのが嬉しかった。デビュー初期から応援してくれている人もいた。泣きながら私を見ている家族の姿もあった。けれど、一番嬉しかったのは、真がいたことだった。

涙なみだでコンサートは無事終了。汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、私は楽屋へと戻る。ここまで来るのにたくさん時間はかかったけれど、夢が叶った。するとドアが開き、そこから私よりも涙で顔をぐちゃぐちゃにしたプロデューサーが入って来て、思わず笑いが零れた。

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それから数日後、真から「一緒に食事に行こう」とメールが来た。何だろうと思いながらも、真から誘ってくれるのは珍しく、私は胸を高鳴らせた。クローゼットから何着も服を取り出し鏡の前で一人ファッションショー。食事と言っても堅苦しくないものがいいだろうと思い、先日お母さんがコンサートを頑張ったプレゼントに買ってくれた少しフォーマルなワンピースを着て行く事にした。

指定されたお店はとても綺麗な場所だった。やっぱりこのワンピースにして良かった。そう思いながら店内に入ると格好いい制服を着た店員さんが挨拶をした後、私を席へと案内してくれた。どうやら真が予約してくれていたようだ。すっかり顔パスになってしまったのが何だか不思議な感じだ。

店員さんに連れて行かれたのは所謂VIPルームというところ。未だに特別扱いされるのは慣れてない。店員さんがドアを開けてくれたから、私はぺこりとお辞儀をしてから部屋に入る。その瞬間見えた真の姿。一気に心に花が咲いた気分になる。だけど、それは一瞬で枯れる。そこには何故かプロデューサーも一緒にいたのだから。


「ほら、ボーっとしてないで座って!」
「う、うん」


真に言われるがままに、私は空いた席に座る。するとプロデューサーと目が合い、慌てて目線を反らす。静かにドアが閉まって、この空間に私たち三人だけになった。真だけだと思ってたからどうしていいか分からず、言葉が出てこない。


「急に誘ってごめん。大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ。でも、まさかプロデューサーがいるとは思ってなくてびっくりしちゃった」


あはは、と笑うと真とプロデューサーも笑う。本当はこんなこと言いたい訳じゃない。何でいるのか聞きたいのだ。すると真が静かに私の名前を呼んだ。なに?と聞けば、何故か真の顔が赤く染まっていた。


「実は、僕たち付き合ってるんだ」
「…え?」
「本当は隠しとこうと思ったんだけど、一番仲のいい君にはちゃんと言っておこうと思ってさ」
「そうなんだ!」


二人に気付かれないようにワンピースの裾をぎゅうと握る。もしかしたら皺になっちゃうかもしれない。けれど、溢れだしそうな思いを我慢するためにはこれしかなかったのだ。私は二人に精一杯の笑顔とおめでとうを送った。

別れ際、二人は笑顔で私に手を振りながら手を繋ぎ夜へ溶けて行った。私は二人の姿が見えなくなった後、溢れる涙を抑える事が出来ず声を殺す。今日はいっぱい泣こう。だから明日からは笑顔で二人を向かえよう。だから今日だけはわがままを言わせて欲しい。


20130227
企画サイト「罪なこと 」様へ提出