「あ゛ー。ただいまぁー」
「おかえり。今日もお疲れ様」
「まじで疲れた。名前ちゃん、俺を癒してぇー」


そう言いながらソファーに座っている私の横にどかりと座って、私の肩に寄りかかって来た。それが可愛くて、ふわふわの髪の毛に触れれば、私が誕生日にあげた香水と汗の匂いが混じって香って来た。
中学校の先生になって数週間。たった数週間なのに、既にいろんなことがあったみたいで家に帰って来ては子どものように私に甘えてくるのだ。私が昌の心の支えになっていると思うと嬉しくてたまらない。


「今日の晩ご飯はオムライスだけど、先に食べる?お風呂入る?」


私がそう聞くと昌はもぞもぞと動きながら「…風呂」とだけ呟いた。だからいつも通りパジャマを用意してあげようと思い、昌の頭を優しくぽんぽんと叩くと、ゆっくりと私から離れて行く。
クローゼットからパジャマと下着を取り出して、それを昌に渡してあげると、ぎゅ、と手を握って来て「どうしたの?」と聞けば、大きな瞳で私を見た。


「今日は一緒に風呂入ろうぜ」
「ヤダ」
「もう一か月も一緒に入ってないじゃん!」
「生理」
「それ一週間前」
「…何で知ってるの」
「俺が名前のことで知らない事があるわけねぇだろ」


さっきまで甘えたのようだったのに、急にドヤ顔をし始めるから、ペチンと頭を叩くと「いてぇ!」と言って頭を抱えた。そんなに強く叩いてないから痛いはずがないじゃん、なんて思いつつ私はその場から離れる。


「え、どこ行くの!?」
「お風呂、入るんでしょ」


昌の方を見ずにお風呂場へと向かって行くと「ヨッシャー!」なんて声が聞こえてきたかと思ったら、ドン、と背中に勢い良くぶつかってきた。ただでさえ男女という違いがあるのに、身長差もだいぶあるから自分が支えれなくなって思わず前のめりになる。
するとニタァと笑った昌の顔が視界に入った。

▼△

特別大きいお風呂じゃないから、大人二人で入るとぎゅうぎゅう詰め状態だ。私は昌に体を預けて足の指の先まで伸ばすと「マジでチビだな」と言ってケラケラと笑った。だから太ももをネイルしたばかりの爪で思いっきり抓ってやれば、昌の声にならない悲鳴が聞こえた。


「ボインの年上お姉さまが好きな昌くんはチビが嫌いですかぁ〜?」
「んなことないって」
「別れる?」
「ぜぇったいイヤ!」


嘆くように言うと、ぎゅうと力強く抱きしめてきた。子どもと大人を行ったり来たりしている昌をからかうのはおもしろい。ごめんね、と言いながら桃色に染まった頬に触れると少しだけ膨れ、唇が尖っていた。


「俺、マジで名前が思ってる以上に名前のこと好きなんだからな」
「ハイハイ」
「…本当に分かってんのか?」
「昌からの愛情はこれでもかって位に貰ってるからね」


そう言って、きゅ、と背を伸ばして昌の顎に軽くキスをすれば、視線の先の顔がみるみると顔が緩んでいく。それがおかしくて今度は昌の腕の中でくるりと回って、首に手を回し濡れた唇を舐め上げれば、昌の指が私のお尻を撫でた。

20130212