一面を海に囲まれた江の島はとても冷える。息を吐けば途端に真っ白に染まる。夏樹の彼女になって一年、私たちはびっくりする位に健全なお付き合いをしている。いや、高校生なのだからそれが当たり前なんだけど、何だかもどかしく感じてしまう。

高校生ではあるけれど、それを除けばただの女なのだ。もっと近い距離になりたいと思うのは当たり前のことだと思う。けれど、それを夏樹に伝えれる勇気なんて持ち合わせていない私は、ただこの距離をもどかしく感じているだけなのだ。

学校が終わり、友人たちにバイバイをしてから、いつも通り一緒に帰る。いつも通り。そう、横に並び一緒に歩くだけ。最初はそれだけで満足していたけれど、今じゃ物足りない。この時間になると、大きめのコートの袖に隠れた右手がぴくりと動くけれど、いつも実行出来ずにいる。


「なぁ、名前」
「ん?なに?」
「俺ら、付き合って一年経ったな」
「うん。そうだね」


会話はそこで途切れた。いつもなら何気ない会話でも返してくれるのに、今日の夏樹はなんだかおかしい。どうしたんだろうと思い、自分よりも大分上にある夏樹の顔を見れば眉間に皺を寄せていた。


「夏樹?どうしたの?」
「…え!?いや、何でもない」
「そう?何かあったら言ってね」
「あぁ。ありがとう」


そう言って夏樹は眼鏡の奥の瞳を細めて、優しく頭を撫でてくれた。それが嬉しくて自然と笑みが零れれば、夏樹の顔がほんのりと赤く染まった気がした。

すると夏樹が、ふぅ、と一度大きく深呼吸をしたかと思えば、頭の上にあった手が下りて来て、コートに隠れた私の手を、ぎゅ、と握った。驚いて夏樹を見上げれば、耳まで真っ赤に染めていた。


「…一年祝い」
「ありがとう夏樹。わたし、幸せ」


夏樹の手はとても冷えていた。けれど私の体温でゆっくりと暖かくなっていく。私たちは今、お互いの体温を分け合い、そしてやっと一つになれた。それが嬉しくて思わず抱きつけば、夏樹の体がピシリと固まった。

20130211