深夜の静かな住宅街に響く二つの足音。それは一定のリズムを奏で、崩れることはない。すると遙一が突然私を呼んだ。低い声は耳を塞ぎたくなる位、夜の世界に馴染んでいる。私は足を止めず「何」とだけ返すと、突然右腕を引っ張られた。犯人は分かってる。私の右側を歩いている遙一しかいない。はぁ、とため息をつき振り返る。満月の光を背中に浴び、表情は見えない。


「貴女はこれでいいんですか?」
「何が?」
「私と同じ道を歩んでいいのですか?」


感情の篭っていない、淡々とした口調だ。けれどそれを否定するように、私を見つめる瞳には不気味な位、熱が篭っていた。私は大きくため息をついてから、遙一の頬に触れる。生身の人間なのに、まるで血が通っていないのかと錯覚するほどにひんやりとしていた。


「いまさらそれを聞いてどうするの?」
「どう、とは?」
「だって、私たちは同じ罪を犯しているのよ」
「…そうですね」


私たちの体は血で塗れている。もう逃げ道のない道を歩いているのだ。後はその道をどう切り抜けて行くのかによって運命が変わるだけである。そうであるなら、遙一と共に魔術師として生きていくのも良いだろう。


「それにしても、貴方もミスをするのね」
「私だって人間ですから」
「ふふふ。そうだったわね」
「そういう貴女こそ、人間だったという事が分かり嬉しいです」


遙一はそう言って止まっていた足を動かした。それに釣られるように私も歩き出す。長さの違う影がゆらりゆらりと動きだす。


「同じ人間だとしても、貴女とは一緒にされたくないですね」
「どうして?」
「私は母の仇を取る為ですが、貴女はただの娯楽の為でしょう?」
「自分の欲を満たす為だもの。何故いけないの?」
「いけないとは言っていません。ただ理由が美しくないだけです」


じゃあお母さんの仇を取る為の殺人は、貴方の美学に当てはまるの?そう聞くと遙一は何も言わず、言葉では言い表せれないような表情を見せた。出会った時間は短いけれど、過ごした時間は濃い。それなのにこんな表情は初めて見た。妙に人間染みてて気味が悪い。


「私、怪盗にでもなろうかしら」
「既にいますよ」
「あら。何人いたっていいじゃない。それにあのボウヤとちゃんとお話してみたいの」
「子どもだからと言って油断したらいけませんよ」
「なに?あの子がお気に入りなの?」
「さぁ、どうでしょう」


そう言って笑った顔は今まで通りの憎たらしい位、綺麗な笑み。嗚呼、そう。私は遙一のこの顔が好きなの。うっとりとしながら見ていたら、いつの間にか距離が出来ていて慌てて追いかける。すると「貴女はたまに油断しているから不安なんですよ」なんて遙一にしては珍しい優しい言葉が降り注いだ。

20130108
企画サイト「はなとよる」様へ提出