部活が終わり、賑やかなチームメイト達に手を振り一人校内へと入っていく。空にはもう星が散らばっているのが見える。春が来たとは言え、まだまだ寒い日が続き日が落ちるのも早い。

そんな中、図書室で自分を待つ幼なじみを迎えに行くために足を速める。普段が声で溢れているからか、物音一つしない静かな廊下は何度通っても不気味だ。

階段を上がって行き辿り着いた図書室。ガラガラとドアを開ければ電気は着いておらず、月のぼんやりとした光が部屋を照らしていた。止まっていた足をまた進め、一番奥の角、人の視線を遮るようにある小さなテーブルに近づく。

黒く綺麗な髪に月の光を存分に浴びせながら静かに寝息を立てている幼なじみ。本当ならもう生徒は帰らないといけない時間。それでも彼女がここに堂々といれるのは生徒会長という特権があるから。

生徒会室の固い雰囲気が苦手やねん

なぜいつも図書室で執務をしているか聞いたときに帰ってきた返答。それを聞いたとき、ほっとした自分がいた。それはなぜなのかなんて分からない。

気付いた時には一緒にいて、幼稚園も小学校も中学校も。ずっとずっと一緒で傍にいたからこそ、彼女が日に日に綺麗になっていく過程を見届けていた。

学校は一緒に帰る、そう約束した幼なき日。けど、中学でテニス部に入りレギュラーになってからは練習が遅くまであり彼女を一人待たせる時間が長くなった。心配したからこその発言は彼女を傷付けたらしい。中学三年生、彼女は生徒会長になった。

彼女が生徒会長になる前から図書室で待ち合わせしていた。部活が終わり、図書室に入ると静かに本を読んでいる彼女の姿を見れば疲れなど一気に吹っ飛ぶ。だからこそ、なのかもしれない。


「…やっぱかわええなぁ」


手を伸ばせば触れる白い肌。こんなにも近くにいるのに、段々と美しくなっていく彼女を見ていると遠くに感じる。

いつの日か自分達は離れ、途切れ、消えていくのだろうか。まだ中学生の自分にはそんなの分かりはしない。ただただ本能のまま、生きていく事に必死なのだ。


「好きや」


白い頬に触れたまま、眠っている彼女に向かい静かに言ったはずなのに、月の光でも分かるぐらいに彼女の耳が赤く染まっていく。それを見て思わず笑みが零れる。


「…最初から知ってた」
「狸寝入りしとったん?」
「起きるタイミング分からんかったんだもん」
「それが狸寝入りって言うんやで」


伏せた顔を上げた彼女のそれは真っ赤に染まっていた。ああ、やっぱかわええなぁ。こんな姿、他の誰にも見せたくないなぁ。そう思うのは愛故の独占欲なのだろうか。


「…小春ちゃん」
「ん?」
「アホ」
「なんでやねん」


細い指でその愛らしい顔を隠していたから優しく外してあげれば、大きな瞳が自分を見上げる。たったそれだけのことなのに、こんなにも胸が高鳴らす事が出来るのは彼女だけだ。


「さ、もう暗いしはよ帰ろか」
「うん」


ガタガタと椅子を鳴らし席を立つ。片手にスクールバッグ、そしてもう片手に終わった書類を持とうとしたから、それを手に取る。


「両手塞いだら手、繋げんからね」
「……やっぱ小春ちゃんはアホや」
「男は好きな子の前ではいっつもアホやねん」


気付けば繋がなくなった手は、今こうしてまた体温を分け合うようにぴったりと寄り添う。

その幸せを噛み締めるように指を絡ませ、強く握りしめた。

20120409
企画「理想郷」様に提出