あかん、好きすぎておかしなる

謙也はそう言うと私を膝に乗せたまま、お腹に手を回してギュウと強く抱きしめた。髪の毛が首筋に当たってくすぐったくて身をよじれば、謙也はさらに強く抱きしめてきた。

私はお腹に回った骨張った指をなぞる。日々テニスに打ち込んでいるから何度も出来て潰れた豆が固くなっている。これは謙也が努力している証拠。
そしてそのまま左指をなぞり、薬指で道を塞がれる。少し前に謙也が買ってくれた私とお揃いのペアリング。

学生やし、高いものは買えんけど、ここ予約な

耳まで赤く染めた謙也がそう言って渡してくれたのは記憶に新しい。私は芸能人みたいに何百万もする指輪なんてもらっても嬉しくない。
私を想い、選んでくれた。それだけで何百万以上の価値のあるものになるのだ。


「ねぇ謙也」
「ん?」
「私、今すっごく幸せ」
「…俺も」


ちゅ、謙也の暖かい唇が私の頬に触れ、小さな音を立てて離れていく。それだけでこんなに満たされた気持ちになるだなんて、私はなんて恵まれているのだろう。


「謙也、生まれてきてくれてありがとう」
「名前も俺に出会ってくれてありがとう」


今一緒にいれること。同じ時間を生きていること。こうして体温を分け合えること。
私にとってはそれが何よりも大きくて一番の幸せだと改めて噛み締めた、そんな愛しい彼の誕生日。

20120318
一日遅れバースデー