(現代設定)



「汚い部屋でごめんね」


困ったように言った佐助くんに、私は精一杯首を振って「そんなことないよ!」と言えば思いっきり声が裏返ってしまった。
その恥ずかしさに顔に熱が溜まったのが分かる。


「飲み物入れて来るからソファーに座ってて」
「う、うん」


そう言って部屋から出て行く。
私は未だに熱い頬に手を添えながら緑色のソファーに座った。

佐助くんとお付き合いを始めて数カ月。
私たちは先日やっと手を繋いだという、絵に描いたような健全なお付き合いをしている。

他の人たちからしたら、もうやれることはやってるような期間に入っているんだろうけど、私は手を繋ぐだけでいっぱいいっぱいだ。

今だって佐助くんの家に来て、佐助くんの部屋にいるということだけで口から心臓が飛び出そうなのだ。
少しでも緊張をほぐそう、そう思って深呼吸を始めようとしたら、部屋のドアが開く音がして肩が大きく揺れてしまった。


「お待たせ。お茶しかなくて、ごめん」
「ううん。お茶美味しいよね!私大好き!」


緊張のし過ぎで変な事を口走ってしまい、佐助くんがプッと笑う。
それを見てまた顔が熱くなる。

佐助くんはケタケタと笑いながら私の横に座った。
ソファーが佐助くんの重みで揺れる。

私はとにかく体の熱を逃がしたくて、佐助くんが持って来てくれたお茶を一気に飲み干す。
けれどそれが思った以上に冷えていて、ごほごほと噎せてしまった。


「ちょっ、大丈夫!?」
「だいじょっ、」
「あぁもう」


佐助くんはそう言いながらも笑っていて、ぽんぽんと優しく私の背中を撫でてくれた。
その優しい手つきと暖かい体温に噎せてしまいそうだ。


「あ、あのさ、こんな時に言うのもあれなんだけど、」
「ん?」
「キ、キス、してもいい、かな、」


段々と小さくなる声に比例して顔どころか首まで真っ赤に染まってる佐助くんを見て、一瞬何が起きたか分からなかったけれど、言葉を理解した後、一気に顔が熱くなった。


「あ、あの、」
「ご、ごめん!今の忘れて、」
「いいよ!」
「、え?」
「…キス、したい、です」


きっと最後の言葉は佐助くんに聞こえていないだろう。もう恥ずかしくて顔が上げれない。
すると佐助くんの大きな手が私の頬に触れ、自然と顔を上げてしまう。

私も佐助くんもこれ以上無いっていうくらいに顔を真っ赤に染めているんだろう。
骨ばった綺麗な指が頬を滑るたびに、ドクドクと心臓が激しい鼓動を繰り返す。

ゆっくり、ゆっくり、佐助くんの顔が近づいてくる。
私はぎゅと目を瞑る。


「…ぷっ」
「…え?」


佐助くんの吐息が顔に触れた時に聞こえた笑い声。
驚いて目を開ければ、佐助くんはケラケラと笑っていた。


「なんで笑ってるの…!」
「ごめんごめん!だって名前の顔、ぷっ!」


ケラケラと笑っているかと思えば、そのまま私に抱きついてきた。
佐助くんの使っている香水の香りが鼻腔を通り脳を刺激する。


「…ステップ進むのはもう少し先でいっか」
「うん、そうだね」


そう言って背中に回した腕で優しく髪の毛を撫でてくれる。
今はまだその温もりを感じるだけで胸がいっぱいいっぱいだ。

私もお返しするように佐助くんの背中に手を回し、力強く離れないように抱きしめた。

20130414