昼休憩を知らせるチャイムが鳴る。んー、と背を伸ばしてから教科書をスクールバッグに入れる。その時、「名前、ダーリンが来たよ」と言った友人の声を聞いてドアの方を見れば、相変わらず厳しい表情をした若がいて思わず笑いが零れそうになる。
友人たちに一言言ってからスクールバッグを手に取って教室を出る。すると若が「遅い」と口を尖らせて言うから、ごめんね、と言いながら手を握ってあげると少しだけ頬が赤くなるのが可愛い。


「今日は天気いいから中庭がいい」
「私は若の行きたい場所ならどこでもいいよ」


そう言って手を繋いだまま一緒に廊下を歩く。付き合い始めたばかりの時は手を繋ぐところか、傍を歩くだけで顔を真っ赤にして毒を吐いていたのに、今では若から手を繋いでくれるし肩や腰に手を回してくれる。
未だにテニス部の人たちにはからかわれることも多いけれど、そんなことにも慣れてしまったのだ。


「今日暖かいね」
「ほら、そんなこと言ってないで早く食え。時間無くなるぞ」
「はーい」


中庭には春独特の暖かく優しい陽が差し込んでいた。綺麗な芝生に座ろうと思った時、「ちょっと待て」と言われ何かと思ったら、若がズボンのポケットからハンカチを取り出しそれを芝生にひいた。


「ここに座って」
「うん、ありがとう」


若が差し出した手を取り、ひかれたハンカチの上に座る。するとブレザーを脱ぎ、それを私の膝の上に置いた。ちゃんと見せパンを履いてのだから大丈夫なんだけど、若にとってはそういう事ではないらしい。座った時に見える太ももが嫌だとかなんだとか。


「なぁ」
「ん?」
「もっとスカート長く出来ないのか?」
「入学した時と比べたらちょっと大きくなったから仕方ないよ」
「じゃあ俺が新しいスカート買ってやるからそれを履け」
「スカートぐらい自分で買えるよ」
「いや、俺が買う」


そう言うと鞄から携帯を取り出しピコピコとメールを打ち始めた。何してるのか気になったから覗き込もうとしたら、すぐに携帯を鞄にしまってしまった。少しだけ口を尖らせて若を睨むと「そんな顔したって可愛いだけだぞ」と言った。


「若って本当にバカ」
「俺に向かってバカって言っていいと思っているのか?」
「バカバカバカバーカ」
「…名前、いい加減にしろよ」
「若のおバカちゃ、」


その時、一瞬にして目の前に青空とそれを遮るようにして若の顔が視界に映った。何が起こったか理解できなくて驚いていると、若の顔が一層近づいてくる。


「俺にバカなんて言える奴、名前ぐらいだぞ」
「私の事押し倒せるのも若ぐらいだよ」
「当たり前だろ」
「そうなの?」
「そうだろ」


するとゆっくりと唇が落ちてくる。人目から隠れた場所だけれど、ここまで積極的なのは珍しい。けれど、最近は部活で忙しくて一緒にいれる時間も少なかったからここは時間が許す限り若に流されてしまおうと思う。

20130402