「あ!名前や!」


そう言うと金ちゃんは一目散にコートから出て、フェンスの向こうの女生徒に向かって行く。
中学の時はこんなことなかったから、高校に上がってから出来た金ちゃんの彼女やと思う。

校内で会っても常に一緒におるし、お弁当だって毎日作ってあげとるみたいや。
そんな金ちゃんが羨ましいと思ってしまうんは、先輩として最低という事は分かっとる。

それでも自然と視界に入れてしまう理由は分かっとる。
こんな事、他の人にバレてしまう訳にはいかん。


「おはようございます」


フェンス越しにこちらを見てふんわりとした笑顔を見せるから、心臓がどくりと鳴った。
今の俺がどんな顔をしとるかなんて想像もしたくない。





最悪や。
せっかくの休日やというのに金ちゃんとその彼女に出会ってしまった。
しかも二人は仲良くベンチに座ってソフトクリームを食っとる。

俺は完全にスルーしようと思っとったのに、運悪く金ちゃんが俺に気付いたようで「財前ー!」と人の多い休日のデパートで俺の名前を呼んだ。
無視しようとおもったけど、そんなことしたら金ちゃんが騒いで余計に面倒なことになる。
一つため息を零してから、俺は金ちゃんの元へと向かった。


「財前、一人でこんなとこで何しとるん?」
「何でもええやん」
「教えてやぁ」
「やだ」
「けちんぼ!」


そう言って歯を剥き出しにして俺を見る。
そんなことより俺は隣におる彼女の方が気になって仕方ない。
チラリと視線を動かすと、大きな瞳と交り合う。


「こんにちは」
「こ、んにちは」


相変わらずふんわりとした笑顔を見せる。
思わずニヤけそうになるのを、ぐっと堪える。


「自分らデート中やろ。俺おったら邪魔やん。帰るわ」
「デート?」


くりっとした瞳に疑問を浮かべながら俺を見た。
すると金ちゃんが「家族で出かけでもデートなん?」と聞いてきた。


「んー、家族やからデートではないかなぁ」
「…家族?」
「おん!俺ら双子やねん!」
「は?」


一瞬何を言ったか理解出来んかった。
すると彼女が金ちゃんの頭をコツンと叩いた。


「突然なんやねん!」
「ちゃんと言うとかな誤解されるって言うたやろ。もう」


ぷくぅと頬を膨らませて金ちゃんを見る。
確かによく見れば、金ちゃんと似とる気がする。


「挨拶が遅くなってすみません。金太郎と双子の妹の遠山名前です」


そう言って微笑んだその姿に頭がぐらりと回った気がした。

20130407