大きな瞳を真っ赤に腫らしたその姿は、小さい頃親に読んでもらった絵本に出てきたうさぎに似ていると思った。いつも涙をぽろぽろと零し、目を真っ赤に染め上げる。泣き虫は面倒臭いという人が多いけれど、俺はそんな彼女を自分が守っていかなければいけないと心に決めている。

俺の胸に顔を埋め肩を揺らす名前の頭を優しく撫でてあげる。小さくて、細くて、あっという間に崩れていきそうだ。この小さな体に一体どれだけのものを詰め込んでいるのだろう。俺はそんな彼女に優しく声をかけてあげることも出来ない。ただ、抱きしめてあげることしか出来ないのだ。


「…制服、濡れちゃった、」
「ええよ、そんなん」
「、ありがと」


大きな瞳を濡らし俺を見上げる。その表情に胸が打たれたようにずきんと痛む。名前にこんな表情をさせとる奴なんか、全員いなくなってしまえばええのに。そんな事を考えてしまう位に、俺は名前の事が愛しくてたまらないのだ。

泣きやんだ名前を対面するように俺の太ももに乗せる。相変わらず酷く軽く、心配になるほどだ。桃色に染まった頬に残った涙の跡が酷く痛々しい。親指で拭えば、名前が優しく微笑んだ。


「…しょっぱい」


濡れた頬にキスをすれば涙特有のしょっぱさが口の中に漂う。それもまた名前の物だと思うと、全てが愛しく感じる。長い睫毛に残った涙も奪うように目じりに唇を寄せれば、「くすぐったいよ」と言い名前は身を捩った。


「なぁ」
「ん?」
「泣くのは俺の前だけにしてな」


名前の泣き顔を見ていいのは俺だけ。泣いた名前を慰めていいのも俺だけ。そんな醜い独占欲に対し、名前はへりゃりとした笑顔で頷く。それが可愛くて旋毛にキスをすれば、名前が俺に抱きついてくる。


「私、ユウジがいるから生きていけるの」
「名前、」
「ユウジに出会えて良かった」


そう言いながら名前の瞳にはまた涙が溜まっていき、ぽろり、大粒の涙が落ちていく。その姿があまりに綺麗で一瞬呼吸をするのを忘れてしまう。名前に出会う前までは泣く女は面倒臭いと思っていたくせに、今ではこれだ。どれだけ名前に夢中かが一目瞭然である。


「名前はもっと泣き虫になってええよ。その分、俺がこれでもかってぐらい甘やかしたるから」


そう言って濡れた唇に指を這わす。そんな俺に対し、名前は何も言わず優しく微笑み小さく頷いた。

20130323