(学バサ設定) 好きだと思えば思うほど彼女の事が愛しくなり、胸が締め付けられるように痛む。笑顔を一人占めしたいとか、白い肌に触れてみたいだとか。好きな人に対してなら誰もが抱く感情が、自分の中でとぐろを巻くように永遠と回り続ける。 この気持ちを素直に言えたら、一体どれだけ楽になれるのだろう。けれど、今のこの関係を崩したくなくて結局言えず仕舞いだ。今だって真田に見せているその笑顔を俺だけに向かせたいと言う気持ちで頭の中は埋め尽くされている。 ホームルーム前のうるさい教室の中で、苗字の声だけが脳に響く。その可愛い声で俺の名前を呼んで欲しい。いつかそんな関係になれることを夢見ているけれど、自分の想いを告げることすら出来ない臆病者の俺には一生無縁なのだ。 「長宗我部くん、今いいかな?」 俺の名前を呼んだ声に一瞬で反応する。机に伏せていた顔を勢いよく上げると、苗字の細い肩がびくりと跳ねた。驚かせてしまったことに罪悪感を感じてしまう。だが、そんな俺の心境を知ってか知らずか、苗字は口を開いた。 「隣のクラスの子が、今日の放課後、教室に残っててくれないかって…」 その言葉に一気に落胆するのが分かった。苗字は優しいから人に頼まれたことを断れないのだ。過去にも何度かこういうことがあった。放課後の呼びだしなんて一つのことしか思い浮かばない。自分の好きな人が、人の恋を世話しているなんて滑稽すぎて笑いも零れない。 「分かったって伝えておいてくれるか?」 「…うん。でも、あのね、」 苗字はそう言うと酷く口篭った。普段ならここで、分かったと言うはずなのに、今日は何故か大きな瞳を泳がせていた。一体どうしたのだろうか。すると顔をほんのり赤く染め、俺を見た。 「長宗我部くんって、好きな人いるって本当、なのかな、って」 賑やかな教室では消えてしまいそうな程小さな声だったのに、俺の耳にははっきりと届いていた。それは一体、どういう意味なのだろうか。苗字は細い指を絡ませながら顔を俯かせた。かと思えば、いきなり顔を上げた。 「ご、ごめん!何でもない!気にしないで!」 そう言って慌てて俺の前から逃げようとする苗字の細い腕をぐっと掴んだ。初めて触れた体は想像以上に細く、少し力を入れただけでも折れてしまいそうだった。俺を見上げる苗字の顔は赤のペンキを零したように真っ赤だった。 「、いる」 「え?」 「好きな人、いる」 俺の言葉にアーモンドのような瞳が大きく瞬きをした。どくんどくんと激しく脈を打つ。自分を落ち着かせる為に唾を飲み込む。すると苗字は下唇を噛み、「そう、なんだ」と言った。この表情に、あの言葉。俺は自惚れてもいいのだろうか。そう思いながら苗字の腕を離した。 20130427 |