…なんやねんほんま。テニスコートから離れた人の気配がない場所に連れて来られたかと思えば、第一声がこれだ。
本人は小さく呟くように言ったから気づかれてないとでも思っているようだけど、地獄耳に定評のある私にはばっちり聞こえている。
ギリギリまで背伸びをして、ウサギの頭を取れば、中から耳まで真っ赤に染めたユウジの顔が出てきて思わず目が点になる。


「着ぐるみの中、そんなに暑かったん?」
「アホ!お前のせいや!」


ユウジはそう言うと急にガバッと私に抱き着いてきた。その勢いに倒れそうになるけれど、ユウジに支えられているお陰でなんとか持ちこたえた。


「ユウくーん?何で私のせいなん?」


理由が分からないから首元に埋まった頭を優しく撫でてあげれば、「可愛すぎや、アホ、」と小さく聞こえてきた。
それが可笑しくて思わず笑いが出れば、体が離れていき「なんで笑うねん!」と真っ赤な顔が目の前に現れた。


「ユウジの為に可愛くしてきたんやもん」
「え、」
「ほら、このワンピースやってこないだユウジが買うてくれたやつやし、髪とメイクはお姉ちゃんに頼んで私の可愛さを最大限に引き出すやつにしてもろてん」


そう言いながらユウジの背中に腕を回して(ウサギの着ぐるみでもっこもこやけど)上目遣いをすれば、ユウジの大きな掌が私の視界を奪った。


「俺んこと見んで」
「なんでー?」
「あかん、もう、最悪や」


ゆっくりと視界が明るくなる。目の前には変わらず真っ赤な顔をしてるユウジ。
なんだかんだ言いながら、口元はニヤけていて、それがまた可笑しい。


「な、ちゅーしてええ?」
「ええよ」


そう言うが早く、私の唇はユウジに奪われてしまった。
ちゅ、ちゅ、と軽いキスが数回続いた後、また強く抱きしめられる。


「絶対勝つわ」
「期待しとるで、王子様」


自然と溢れる笑顔。それが可愛くて背伸びをして今度は私がユウジの唇を奪ってやった。

20120217