「ありえん。ほんまありえん。どんぐらいありえんかと言えば名前と一氏が付き合っとるぐらいありえん」 「ちゃんと埋め合わせするから許してって」 「絶対やからな!頬っぺにチューぐらいはしてもらわな元取れんで!」 「頬っぺにでもおっぱいにでもチューしたるわ」 「おう!行って来い!」 なんという現金な奴だ、と思いつつ出かける当日にこんな事を言ってでも許してくれる友人には本当に感謝しっぱなしだ。 ぴっ、と通話を切って携帯をベッドの上に置く。そしてクローゼットを開き、ぎゅうぎゅうに押し込まれている服を見る。 さて、何を着て行こうか。と、思ってもワンピース愛好会に入っている私の所持服の八割はワンピース。 その中でも一番お気に入りで、ユウジが買ってくれたものを手に取る。 「おねーちゃーん、髪やってー」 「…デートか」 「テニス部の練習試合見に行く」 「お姉様に任せとき」 隣の部屋で雑誌を読んでいた美容師のお姉ちゃんに髪の毛をセットしてもらおうと頼めば、「ユウジくん関連やったらしゃーないわ」と言ってすんなりと腰を上げた。 やっぱり家族公認のお付き合いだと何かと楽だ。 「むっちゃ可愛いワンピースやな」 「こないだユウジが買うてくれてん」 ええなぁ、ラブラブで。お姉ちゃんはそう言いながら私の髪をとく。 それからはさすが美容師、としか言いようのないぐらいの手際で胸下辺りまで伸びた髪の毛はくるくると巻かれた。 最後にぱっつんの前髪をふわりとカールさせて終わり。 「やっぱ名前はうちに似て可愛いな!」 「…ありがとう」 「そんな褒めんといてよ!」 バシッと思いっきり背中を叩かれて思わず変な声が出る。 それでも感謝しながらお姉ちゃんの部屋を出ようとしたら「高校生の内は朝帰りは許さんで」なんて言うから、アホ!と叫んで自分の部屋に駆け込んだ。 それにしても髪の毛にしろメイクにしろ、自分でやるより何倍も綺麗で(そら当たり前やけど)自分はここまで変われるんだなぁ、と改めて感じる。 ほんまにお姉ちゃんに感謝感謝。 今日の練習試合は四天宝寺のテニスコートで行われるらしく、指定された時間に行ってみれば、辺り一面女の子女の子女の子…。 テニス部が人気だということは最低限の知識として持っていたけれど、これはなんだ。人がゴミのようだ。 フェンス近辺には人が群がり過ぎてさすがに近寄る勇気はない。少し離れたベンチに座りバッグから携帯を取り出す。 「着いたけど女の子がいすぎて見れないかも、っと」 ポチポチとユウジにメールを打ち送信。 始まるまであと30分はあるのにみんな集まってて凄い、というより洒落込んでいるレベルが違う。あの子の頭に付いとるリボンでか過ぎやろ。 その時、ブルブルと携帯が奮えサブディスプレイに「受信完了」の文字。 「ちょっと待っとき、ねぇ」 ユウジから届いたメールを小さく読み上げる。内容からして迎えに来てくれるということだろうか。 でもユウジもテニス部レギュラーの一人であり、めっきりホモキャラが根付いているけれど、あれでも女の子に人気があるのだ。(顔だけはええからな) 騒ぎになったらめんどいなぁ、なんて思いつつ携帯を閉じた時だった。 急に回りがザワリとして何かと思って顔を上げれば、遠くの方からピンクのウサギの着ぐるみがこっちへとやって来る。 あの方向はレギュラーメンバーの部室がある方だ。じゃああれはユウジだろうか。 段々と近寄って来るウサギをジッと見ていたら、人込みの中でキョロキョロしていたそれが私の元へと近づいてきた。 そして今、目の前にはウサギがいる。 「……ガン付けとんのか」 ウサギはただベンチに座っている私を見下ろしているだけで何もアクションを起こさない。くりくりキラキラの目が私を見つめている。 なんだかそれに苛立って少し怒り口調で言ってみれば、ウサギは私の頭をポンポンと優しく撫でてから、もこもこの手で私の腕を掴んだ。 「…行くで」 ウサギの中から聞き慣れた声が聞こえてきた。やっぱりユウジだ。 おん、小さく返事をしてそのままウサギに連れ去られた。 20120217 |