「あ、体操服忘れた」
「はよ借りてきなさい」
「はーい」


友人にシッシッと手を振られながら教室を出る。私たちのクラスを担当する体育の先生はうるさくて有名だから、体操服忘れて授業に参加出来ませんなんて言ったらビンタものだ。(実際には手出さんで!)
それにしても気付いたのが早くて良かった。まだ授業すら始まってない時間だ。
隣のクラスに言って友達に聞けば「今日体育ないから誰も持ってないらしいで」と言われた。


「終わった!」
「何がやねん」
「あ!小春ちゃんおはよう!今日もピチピチお肌やな!好き!」
「もー、恥ずかしいやん!アタシも好き!」
「…おい、俺には無しか」
「ユウジもおはよ。今日もいつも通り格好ええな!」
「おん!当たり前やん!」


さっきまで無視されてムスッとしてた癖に、ちょっといい態度を取ればすぐに機嫌が治る。ちょろい。
今、一組前の廊下にいるということは丁度朝練が終わったところなのだろう。
その証拠に頬がほんのりと桃色に染まっている。


「あ、ユウジ。体操服持ってへん?」
「持っとるけど…忘れたん?」
「おん。やから貸して!」


そう言って両手を合わせて頼めば「優しい彼氏がおってよかったなぁ」と言いながらバッグを漁って、体操服を取り出した。


「下も」
「は?」
「一式忘れてん」
「アホか」


ぽこん、と私の頭を軽く叩いてから今度はズボンを取り出す。それを受けとって、ぎゅ、と抱きしめる。


「へへ、ユウジのにおい」
「なっ!」
「じゃ、行くな!ありがと!小春ちゃんもまたね!」


ヘラヘラと手を振りながら私が教室へと戻れば、私の席に座り机の上にカスを零しながらメロンパンを頬張っている友人がいた。







「名前ちゃんは相変わらずかわええなぁ」
「……せやな」
「ユウくん、顔トマトになっとるで」
「あっ、あれはアカンやろ!もうちょいで死ぬとこやったわ!」
「キュン死にってやつやんか!」


20120217