名前の彼氏も相変わらずやな、と目の前でいちご牛乳を飲みながら言う友人の言葉に思わず苦笑する。
昼休憩に彼女をほっとくとかありえんわ、そう言って今度は学校に行く前にコンビニで買ったメロンパンに噛り付いた。

そうは言っても出会ったときからああだったし、私と付き合ったからと言って行動を直せだとか、私だけを見てだとかくだらない束縛はしたくない。
あのまんまのユウジが好きやねん、そう言って窓越しのグラウンドを見た。


「やけど今だに名前が一氏と付き合っとるのが信じれん」
「もう一年経つで」
「もうそんなに経つん!?早過ぎやろ!」


そう言って頭を抱えるように机に俯いたかと思えば「…名前が大人になって一年か」なんてアホ臭い下ネタを言うから思いっきりド突いてやった。


「最初、一氏と付き合い始めたって聞いた時はホモを隠すためのカモフラやと思っとったのになぁ…」
「やからユウジはホモ違うて」
「一ヶ月以内に別れると思っとったし」
「…ユウジにも言うてたな」
「なのに!もう!一年!とか!」
「…口ん中からメロンパンの成れ果てが攻撃してくるんやけど」


私の主張も虚しくわんわん言い出した友人を片目に(ユウジの話題になるといっつもこれや)外にいる小春ちゃんとユウジに目線を移した。
さっきから手を繋いでくるくる回っているけれどネタの打ち合わせか何かだろうか。

リンゴジュースを飲みながら、クラスメイトの話し声と友人の喚く声をBGMにしてその様子を見ていたら、急に目線を上げたユウジと目が合う。
するとユウジは繋いでいた手を離して両手を振り始めた。それに手を振って返せば「ちゃうわ!」と言いたそうな表情をした。


「訳わからん」
「窓開けろっちゅーことやろ」
「あ、そうなん?」


するとどこからか現れた白石くんがにっこりと微笑みながら窓を開けた。
そこから顔を出すと「なんで白石がおんねん!名前から離れろ!」と二階の私達に向かって叫んだ。
でも白石くんはくすくすと笑いながら「自分、愛されすぎやろ」と言い私の肩に腕を回した。


「おい!名前!浮気か!死なすど!」
「…ユウジに殺される前に離してや」
「おん。まだ死にたないしな」


白石くんはそう言うと「じゃ、幸せにな」と言って手を振りながら去って行った。
やっぱイケメンや。


「お前彼氏の前で堂々と浮気とか最低やな!」
「こそこそやったらええんかい」
「ドアホ!アカンに決まっとるやろ!」


小さい声で言うたのに、なんで聞こえてんねん。そう思いながら「で、どしたん?」と声を張り上げて言えば、ユウジは「おお、せや!」と話を切り替えた。
単純でよかった。


「今日の部活、ミーティングで終わりやねん!」
「そうなんや」
「おん!」
「じゃあ小春ちゃんとネタ作りやろ?私この子と帰るし、安心しいや」
「ちゃうわ!ボケか!盛大なボケか!」


そう言ってわーわー騒ぐユウジの横で、小春ちゃんがまるで我が子を見るような優しい笑顔をしているのが面白くて仕方ない。
すると小春ちゃんと目が合う。すると、さっきユウジに向けられていた笑顔が今度は私に向けられる。


「いっ、一緒に帰ろうっちゅーことやろ!文脈で理解しろ!アホ!」
「駅前に新しくカフェが出来てんけど、今ならオープン価格で全品30%オフらしいねん」
「よし!じゃあ行くで!」


そう言ってユウジは歯を見せてニカリと笑った。
相変わらず小春ちゃんの優しい笑顔は私とユウジに向けられていて、小春ちゃんは私たちのお母さんみたいやな、なんて思ってしまった。

20120217