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部活帰りにショッピングモールに来て早一時間。さっきから一歩進んでは一歩下がるの繰り返しをし続けているユウくんの前には、ピンク塗れの可愛い雑貨屋さん。入口には大きな白いウサギのぬいぐるみが出迎えてくれている。
ユウくんはここでバレンタインのお返しを買いたいみたいだけれど、勇気が無くて入れないみたいだ。
アタシはその様子を黙って見ている。顔を真っ赤にして、何度も何度も深呼吸をしているユウくんは正に"恋する乙女"である。

中学の時は"小春、小春"と何かあればすぐにアタシに構っていたけれど、高校に上がりあの子に出会ってからのユウくんはまるで別人になったようだ。もちろん、いい意味で。
顔を真っ赤にして「好きな奴が出来た!」と報告してきたユウくんを見て、内心ホッとしたのはここだけの話だ。


「もう。ほら、ユウくん行くで!」
「ちょ、待って!まだ心の準備出来てへんって!」
「そんなん言うてたら店終わるわ!」
「引っ張らんで!アカン!俺にはまだ早過ぎる!」


このままでは何時になっても店に入る事が出来ないから、顔を真っ赤にして拒むユウくんを引っ張り、無理矢理店へと入らせた。
ピロリロリン、なんて可愛い音がしたと同時に男性向けの店ではありえない、可愛い声の"いらっしゃいませ"が店内に響いた。


「こっ、ここはなんや!不思議の国か!」
「そんなんええから、はよ決め」


瞳孔を開き、ギラギラと店内を見るユウくんは正直気味が悪い。
ベシンと頭を叩けばユウくんは少し冷静さを取り戻したようで「ほ、ほな決めよか」としどろもどろに言った。


「あの子、チャーミングちゃんが好きなんやっけ?」
「……なんで知っとんの」
「前その話したやん」


些細なことでヤキモチを焼くのは本当にゾッコンだからだろう。口を尖らせて、ブツブツ言いながら猫の雑貨を見ているユウくんに思わず笑みが零れる。
この感覚は手を焼かせてばっかだった子供が巣立った、と同じようなものだろう。

その時、ふと視界に猫のぬいぐるみが入った。ふわふわの白い毛に覆われ、首元にはピンクのリボンが巻かれてる。そして小さな手でハートを持っているかと思えば、よく見れば指輪を入れれるようになっている。
あの子はロマンチックな子やし、こういうの好きそうやなぁ、と思っていたら「あ」ユウくんが声を上げたかと思ったら、そのぬいぐるみを手に取った。


「あいつ、頭ン中お花畑やからこういうの好きやろ」
「せやね。ええんちゃうん」
「じゃあ、これにしよ!」


ユウくんはそう言うと猫のぬいぐるみを手に持ち、そそくさとレジへと向かって行った。







「バレンタインのお返し」
「嘘やん!ユウジはアホやから絶対忘れとると思ってた!」
「天下の一氏様やぞ!忘れるわけあるか!」


朝練が終わり、あの子の教室へと向かえば今日も可愛い笑顔を振り撒いてこちらへとやって来た。
そしてアタシに可愛らしい笑顔を向けて挨拶をする。毎回それに胸がキュンとなるのは秘密。

ユウくんは手に持っていた袋を目の前に出し、ぶっきらぼうに渡す。すると真ん丸の目をさらに真ん丸にさせてからそれを嬉しそうに受けとった。


「じゃ、教室行くわ」
「おん。ありがと」


低い位置にある頭をぐりぐりと撫で回した後「小春行くでー」と言ってユウくんは立ち去ってしまった。
じゃあな、そう言ってアタシも歩きだそうとしたら腕をグッと掴まれて思わずバランスを崩しかける。


「どしたん?」


アタシの腕を掴んでいるのはあの子。大きな瞳でアタシを見上げているかと思えば「いつもありがと」と言った。


「ん?何が?」
「ユウジのこと。この店、入るの時間掛かったやろ?ユウジのことやし、一人では絶対入れんから小春ちゃんが一緒に行ってくれたんちゃうん?」
「…よう分かったなぁ」
「まあね」


本当にこの子は回りをよく見ている。ユウくんのことだけではない。アタシのことまでこうして気にかけてくれる。
それが嬉しくてアタシも自然と笑みが零れる。

ユウくんより先に出会ってたら好きになってたかも…なんてね。

20120308