夏が終わる。そう思ったのは精市くんに貰った向日葵が太陽を見るのをやめ、すっかり俯いてしまっているから。それが寂しくて、折れた茎を持ち上げ花を太陽へ向けるけれど、また直ぐに地面へと目を向けてしまう。

精市くんに貰った時はまだ小さくて、蕾もない状態だった。ガーデニングに疎い私は母に協力してもらいながら一生懸命に育て、私より背丈が大きくなり立派な花を咲かせた時はとても嬉しかったことを思い出す。

始まりがあれば必ず終わりがある。それは花も一緒で季節が終われば枯れてしまう。分かっているけれど少し寂しい。ぼんやりしながら向日葵を見ていた時だった。

「精市くんが来てくれたわよ」と庭側の窓からひょっこりと顔を出したお母さんの後ろに私服の精市くんがいた。今は日曜日の午後だから部活のはずだ。びっくりして呆然と見ていると「急に部活が休みになったんだ」と言って微笑んだ。


「俺もそっちに行こうかな」
「じゃあこのサンダル使っていいわよ」
「ありがとうございます」


精市くんはお母さんに軽く会釈をすると、お父さんのサンダルを履いて私の傍へと来た。見た目が整っているのだけに、お父さんのサンダルが似合わなくて少しだけ笑いがこぼれる。


「向日葵、枯れちゃた」
「もう秋だからね」
「そうだとしても寂しいよ」


私がそう言うと精市くんは小さく何かを呟いたかと思うと、肩にかけているバッグをごそごそし始めたかと思えば鋏を取り出して、まだ花弁が綺麗に揃っている方の花の茎を少しだけ残した状態で切り取った。


「これ、ちょっと水に浸けておいてもらって、俺らは乾燥剤と大きめの瓶を買いに行こうか」
「なんで?」
「ドライフラワーにすれば、ずっと残しておけるだろう?」


そう言って優しく微笑む精市くんが眩しくて目を細める。すると「キスしたいの?」なんて言うから慌てて首を振れば、口元に手を当てて「分かってるよ」と言って喉で笑われた。


「もう少ししたら種を取って、また来年咲かせよう。そうしたら悲しくないだろう?」
「また咲くの?」
「名前がちゃんと世話さえすればね」
「じゃあ頑張ろうかな!」


私がそう言うと精市くんの大きくて優しい掌が私の髪の毛を流れていった。それが心地よくて目を瞑れば、さっきまで太陽が照らしていて明るかった視界が暗くなったかと思えば、唇に暖かく柔らかい感触が落ちてきた。


「…お母さんが見てたらどうするの」
「向日葵で隠してたから大丈夫だよ」
「、そうだとしても恥ずかしいよ」


真っ赤になった顔を見られたくなくて俯けば、突然視界に目の前に精市くんが持っている向日葵の花が入ってきた。びっくりして目線を上げれば、「名前まで枯れてどうするの」と言い少し頬を膨らませた。


「私の目はあなただけを見つめる」
「え?」
「向日葵の花言葉。だから来年は名前が立派な向日葵を咲かせて、俺にちょうだいね」
「っ、うん!」


そう言って私は向日葵に負けないぐらいの笑顔を、今日も明日も来年も精市くんに見せるのだ。
20120831

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