「光くん、おはよう!」
「おはよ」
「今日も朝早くからお疲れさま!」
「名前も変わらんやん」
「でも私は光くんみたいに毎日朝早いって訳とちゃうもん」


名前はそう言うと八重歯を見せ、にっこりと笑った。昔から変わらんその笑顔に安心するけれど、内心は複雑な気持ちやった。
俺と違って人懐っこくて笑顔を絶やさん名前は昔から人気者で、幼稚園でも小学校でも常に周りに人が集まってくるタイプやった。それは中学に入っても変わらんまま。

ただ変わったのは、名前を見る男子の目。それまではただの友達だった奴が中学に入った途端、名前を好きになったとか、サッカー部の誰かに告られたとか、そう言う噂が自然と耳に入ってくる。

それを聞くたびに耳を塞ぎたくなる。理由は聞かんくたって分かっとる。やから俺は出来る限り名前と一緒にいて、少しでも自分が安心出来る時間を増やすことにした。


「今日は何植えるん?」
「アリッサムやって。昨日、部長が言うてた」
「…そか」


最近の名前は何かあればすぐに"部長"だ。中学に入学し、入った部活は園芸部だった。元々すぐに他人と仲良くなれる名前は案の定、園芸部の部長にも気に入られ、今では休日に二人で出掛けることがあるぐらいに仲がいいらしい。
それを聞いたのは謙也さんからで、「財前、幼馴染の子のこと好きやねんなぁ」と言われ思わず足を踏んづけたのはまだ記憶に新しい。


「なぁ、今週の日曜日は予定入っとる?」
「今週は部長と一緒にガーデニング用品見に行く約束しとる」
「、そっか」
「どしたん?何かあるん?」


いや、何もないわ。そう言って俺の肩の高さまでしか無い頭を撫でてやれば、「相変わらず光くんは私の事子ども扱いするなぁ」と言って笑った。名前はこの笑顔を部長とやらに見せとるんやろうか。そう思ったら腹の底がモヤモヤしていくのが分かる。
やから撫でとった手に力を込めて、脳が入っとるのが不思議なぐらいの小さな頭を力強く握りしめれば「ちょっ、痛い!」と声を上げた。


「今週の日曜、テニスの試合あるから見に来い」
「え?」
「ガーデニング用品なんていつでも行けるやろ。でも、俺の試合は一回きりや。やから俺優先な」


俺がそう言えば名前はきょとんとした表情をしてから、八重歯を見せ「うん!」と満面の笑みで俺を見上げた。
20120927

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