隣で歩く一氏くんを見上げる。
テニスをしている時はいつも笑顔で、金色くんと一緒にいる時は花が咲いたような笑顔を見せる。
それなのに私と一緒にいる時は常に眉間に皺が寄ってて何も喋ろうとしない。
私が話しかけたって一言二言で終わってしまう。

これで彼氏彼女の関係だなんて笑えちゃう。
ずっとずっと好きだった一氏くんに玉砕覚悟で告白したつもりが「ええで」の一言でこの関係になった私たち。

もしかしたら一氏くんの気まぐれだったのかもしれない。
そうだとしても、私が彼女になったということは揺るぎない事実なのだから、ゆっくりと好きになってもらえればいいと思った。

けれど、あれから数か月経っても私たちの関係は変わらないまま。
変わったといえば、私の携帯に一氏くんのアドレスが増えて、互いに部活に入っているから学校から帰る時は一緒だという事だ。
それもだいぶ進歩した方だとは思うけれど、この関係はあまりにも歪みすぎていてもう終わりだと思う。


歩いていた足を止め、一氏くん、と名前を呼ぶ。
するとダルそうな表情をしながら私を見て「…何」と言った。
その声に感情はないように思えるのは仕方ないと思う。

からからに乾いた口を開け、あのね、と言えば「さっさと言えや」なんて言われて、視界が少し滲むのが分かった。
でもここで泣いたらただの面倒くさい女で終わってしまう。
ぐっと涙を堪えて一氏くんを見上げれば、月が雲に隠され表情はよく分からなかった。


「今までありがとう」
「…は?」
「あと、ごめんね。今まで無理させてたよね」
「なに、言うてんの」


初めて一氏くんの声に感情が灯った。
でもそれは明らかに怒りが込められたようなものである。

私から告白したくせに、自分で振るなんて最低だ。
怒られるのも当たり前、仕方ないこと。
ふぅと大きく呼吸をしてから、またゆっくりと口を開く。


「気、使ってくれてたんだよね」
「…」
「一氏くん優しいから…ごめんね」


別れよう
口から出たその一言で、私たちのこの変な関係は終わりだ。
堪えていたはずの涙がボタボタと流れ始める。
止めようと思って制服の袖で拭うけれど、全く意味が無い。

すると一歩、一氏くんが私の方へ踏み出した。
我儘な私に怒って殴られるんだろうか。
ぎゅっと目を瞑り衝撃を待っていると、急に体が温もりに包み込まれた。
それが一体何か分からなくて目線を揺らしていると、今まで見たことないぐらいの近い距離に一氏くんの顔があった。

驚いて一歩下がろうとすると、何かに縛られて動けない。
それは私の背中で固く結ばれていた。


「ひと、うじくん…?」
「…アホなこと言うのもいい加減にせえよ」


耳元で聞こえる一氏くんの声。
思わず息を飲むとゆっくりと体の縛りがなくなり、さっきまで肩に埋まっていた一氏くんの顔が私の目の前にある。
いつの間にか雲が流れていたようで、月の光で一氏くんの表情がよく見えた。


「…泣いてるの?」
「お前がアホなこと言うからや。何で、別れるとか言うねん」


俺はお前のこと、好きやねん
掠れた、小さな声だったけれど、確かに一氏くんはそう言った。
もしかしたら私が都合のいいように聞き間違えたのかもしれない、そう思ったのに涙で濡れた瞳が嘘でないことを物語っていた。


「お前に告られたとき、めっちゃ嬉しかった」
「え?」
「せやのに、どうやって接すればええか分からんで…なんも言わんお前に甘えとった」
「一氏くん…」
「すまん…!」


そう言ってまた私を強く抱きしめた。
一氏くんの言葉がひとつ、またひとつと私の中の氷を溶かしていく。
また涙が溢れ出た。


「好きや。めっちゃ好きや」
「…私も、好き」


お互いが顔を涙で濡らす。
それを見て、初めて二人で笑い合い、そしてずれあっていた想いが重なるのはこんなにも嬉しく愛しいものだと初めて知った瞬間だった。
20121229

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