嫉妬、なんて醜いだけの感情なんかなくなってしまえばいいのに。
そう思うけれど、自分の好きな人が、普段人には見せない笑顔をよりによって女の子に見せてるなんて、彼女としては複雑な気持ちになるのは仕方ないと思う。


「バーカ」
「そんなこと言ったら殺されるで」
「そん時はそん時」


ニヤニヤしながら肩肘立てて私を見ている友人の唇を摘まめば、ねっとりとグロスが指に付いた。
最悪や、と小さく呟くと「これで名前は私の子を妊娠したわ」と言って笑った。


「…今は自分のアホさが嬉しいわ」
「もっと感謝して、一氏と別れてもええんやで?」
「別れませーん」


なんて言うけれど、内心はやっぱりモヤモヤ。
グラウンドで女の子に囲まれてるユウジの顔はデレデレしてて、ほんのりと顔が赤い。
それが体育終わりなら運動したから、なんて自分に言い訳出来るけれどこれから授業が始まるのだ。

見すぎていたのか、私の視線に気づいたのか分からないけれど、突然ユウジがこっちを見上げるからばっちりと目が合う。
満面の笑みで私に手を振るけれど、苛々している私はカーテンを掴み、そのまま勢い良く閉める。
するとグロスを塗りなおしてる友人が、口元を手で隠して笑っていたから、軽く威嚇してやった。







だるい授業が終わって、机に打っ伏していると「名前!」と大声で私の名前を呼ぶ声が聞こえたと同時に、「げ、一氏」と呟いた友人の声も聞こえた。
少しだけ顔を上げて様子を見ると、体操着のまま私の元へとドカドカ歩いて来るユウジの姿が視界に入る。
その後ろで笑っている白石くんと、おどおどしている謙也くんがぼやけて見えた。


「名前ー!なんでさっき無視したん!俺死ぬかと思ったわ!」
「はいはい。死なんから黙って、うるさい」
「うるさいちゃうわ、ボケェ!行くで!」
「は!?何言うてんの!」


ユウジはそう言うと問答無用で私の手を引くと、そのまま教室へと連れ出した。
離してと言っても聞く耳を持ってくれないから、私も口を挟むのは止め、連れていかれるままに歩いて行く。
その時、授業が始まるチャイムの音が聞こえた。


誰もいない屋上はとても静かだ。
ユウジは膝を付いて、私の手を取ると「俺、なんかした?」と聞いてきた。
なんかしたなんてもんじゃない。私の心をぐちゃぐちゃにしたくせに。
ユウジがジッと私を見ているから、私は目を合わせないように「…女の子に笑いかけてた」と呟くと、ユウジの瞳が大きく開かれたのが見えた。


「え、名前ちゃんヤキモチ妬いたん?ほんまに?」
「…あんな顔、私にしか見せんかったのに」


そこまで言うと体が溶けてしまいそうな位、熱くなっているのが分かる。
するとユウジが私を強く抱きしめて、可愛い可愛いと何度も繰り返す。
恥ずかしさがピークを達して、涙が出始めた。
それを見たユウジは今度は驚いた表情で私を見た。


「ユウジのアホー!もう別れるー!」
「いややー!絶対別れんでー!」
「アホー!女の子にニタニタすんな。ボケー!」
「あの子ら、彼女さん可愛いねって言うてくれたんやもん!ニタニタすんのもしゃーないやんか!」


名前愛してる!俺を許してくれー!と言いながらまた私を抱きしめた。
女の子たちが私を口実にユウジに近づいただけかもしれないのに、ユウジは何も分かって無い。本当にただのアホだ。
バカバカバカ!と繰り返すと「名前にやったらバカって言われるのも幸せやー!」とか言うから、もうどうでも良くなった。
20121230

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