あ、名前や!
金ちゃんは私を見つけると、大きな声で私の名前を呼び指さした。
すると自然とその場にいる殆どの視線が私へと向き、一瞬足が止まる。
それでも金ちゃんの人懐っこい笑顔には負けるから、また足は自然と進む。


「金ちゃんは今日も元気やねぇ。ええことや」
「おん!ワイはいつでも元気やで!」


にこにこ笑顔でそう言う金ちゃんはやっぱり可愛い。
自然と頭を撫でようとしたら、ぴたり、と手が止まった。


「ん?どうしたん?」
「金ちゃん、また背高くなった?」
「ちょっとな!」
「男の子やからこれからもっと伸びるなぁ」


初めて会った時には既に私よりも大きかったけれど、今はその時よりもだいぶ大きくなっているようだ。
男の子は高校生になってからも成長期だとは言うけれど、少し寂しい気がする。


「今日はユウジの応援に来たん?」
「いや、四天宝寺の応援やで」
「お前は俺だけの応援で十分や」


さっきまで金ちゃんしかいなかったのに、いつの間にか私の後ろにユウジがいた。
全く気付かなかったから少し驚くと「なんやその顔」と言って私の頬を爪った。


「いひゃ、いひゃい!」
「あ?なんて?」
「あー!ユウジ苛めはあかんで!」
「苛めちゃうで。調教や、調教」
「ちょうきょう?」


金ちゃんと会話をしながらも、私の頬を抓ったままだ。
痛くてユウジの手を叩くのに、一向に離してくれる気配が無い。
すると「こら!ええ加減にせい!」と声が聞こえ、ユウジの手が離れていった。


「あらら。名前ちゃんのせっかくの可愛いお顔が赤くなってしもうたやん」
「小春ちゃーん!」
「ごめんな、名前ちゃん。怖かったやろ?」


そう言って救世主、小春ちゃんに抱きつけば「小春でも許さんで!」とユウジが騒ぎだしたから、ベーっと舌を出せば「なんやその顔は!」と言われ、また騒ぎ始めた。


「なんやうっさいと思ったら、またバカップルか」


淡々とした口調でやって来たのは、相変わらずダルそうな財前くんだった。
するとユウジの視線が財前くんに向き、「先輩にうるさいとは何様や!」と言った。


「部長にわーわーうるさい原因見て来いって言われて来たんすよ」
「白石め…。俺らの仲を引裂こうとしとるんやな」
「どう考えたらそうなるねん」


私のつっこみが聞こえていないのか、ユウジは「ちくしょー!」と言いその場から走り去った。
残された私たちはただ呆然としてその場に立っていたけれど、「ユウジは相変わらず名前にお熱やなぁ!」と言って笑う金ちゃんに、私たちも釣られて笑った。
今日も四天宝寺のテニス部は平和です。
20121228

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -