くちづけは37度2分


見上げれば空には星が輝いていた。まだ親に保護されている身の俺らは、遅くなる前に家に帰らなければならない。

デートが終わる時の独特のしんみりとした雰囲気。名前からはまだ帰りたくない、そんなオーラが滲み出ている。本当は俺だってそうだ。だけど、名前だって言葉に出さないのに、俺だけがそんな我が儘を言えるはずがない。

一歩進む度に近付く名前との別れ。心なしか歩く速度が遅くなっているのは気のせいではないだろう。


「…精市くん」
「ん?」
「来週の試合見に行くね」
「じゃあ名前に格好いいって思ってもらえるように頑張らなくちゃいけないね」


俺がそう言うと繋がっている名前の手がぎゅうと力を増し、「頑張らなくたって、精市くんはいつも格好いいよ」そう消えるような声で言った。

名前は変なところで恥ずかしがる癖がある。それがまた可愛いのだけれど、面と向かって言って欲しく思うのも本心だ。

でも、それもまた醍醐味だろう。ベッドの中の艶やかな姿とのギャップが、また名前の魅力を一層引き立てるのだ。

そんなことを考えていたら、気づけば名前の家が目の前にまで来ていた。一緒にいれる時間もあとほんの僅かだ。


「精市くん、今日はありがとう。楽しかったよ」
「それは俺もだよ。ありがとう」


玄関に備え付けてあるライトに照らされている名前の表情は、確かにその言葉通りの笑顔であった。けれど、反対にその表情に胸が痛み、俺は名前の腕を引っ張った。

急に引き寄せられた腕は痛かったであろう。けれど、どうしても俺は名前を抱きしめて、自分の胸に抱え込みたかった。とくん、とくん。名前の鼓動が伝わってくる。


「今週はもう会えないかもしれないけど、電話いっぱいするから」
「うん。けど、練習で疲れてるんだから無理はしちゃダメだよ?」
「名前の声を聞かないと疲れが取れない体質なんだ」
「それは重症だね」
「だろう?」


そう言って俺の胸元にある名前の頭を優しく撫でてから、ゆっくりと体を離す。そして膝を折り、目線を合わせれば名前の小さな掌が俺の両頬を包み、唇に優しい温もりが落ちてきた。

20120615

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