雨が降っていた。強風に凪ぐ水の糸を、窓の外に眺める。ざわめく雨音の合間を縫って、時計の秒針が規則正しく空間を刻んでいた。
あれから、一年が経つ。
例年より僅かばかり寒い春を経て、雨の多い夏を過ぎ、もの哀しい秋ももうすぐ終えようとしている。
そうして移ろう季節のなか、淡い淡い夢から覚めたばかりのような日々を、静かに送っていた。
薄暗い部屋で、蜂蜜入りのホットミルクを飲みながら、細かな活字を目で追っていく。本棚に詰めるだけ詰めて、ほとんど放置されていた本を、私もそれなりに読むようになっていた。
風が窓を揺らす。ガタガタと奮える硝子の向こうで、空が一瞬だけ光る。次いで、空気を裂くような音が響いた。雷は存外、近いらしい。
外へ飛び出したくなるのを必死に堪えて、頭のなかで本の内容を読み上げることでやり過ごす。期待して外へ駆け出して、それでそこになにもなかったら、ひどく落胆するのが目に見えているからだ。
しばらくすると、雷は遠退いていった。雨もすこしずつ弱くなっているようだ。甘いホットミルクを啜って、息をつく。ほっとしながらも、やはりどこかで残念に思ったとき、ドアノッカーが鳴らされた。
マグカップを傍のテーブルに置いて、ロッキングチェアから立ち上がる。もちろん、宅配便なんて取ってはいない。また、辺鄙な奥まった場所にある、この小屋を訪ねてくるひとなんて本当に限られている。
はい、と小さく返事をして、今度こそ期待を胸に恐る恐るドアを開いた。
なにかことばを紡ぐ前に、腕を掴まれ、引き寄せられる。びしょ濡れの身体で彼は容赦なくぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。冷たいけれど、ひさしぶりに覚えたこの安心感はなにも変わらない。
「逢いたかった」
「私も、逢いたかったよ、政宗くん」
背中に回された腕にさらに力がこめられる。痛いくらいのそれが、どうしようもなく愛しい。
「なあ、ゆきめ」
「なに?」
「寒い」
ぽつりと零された不満に、思わず笑いが込み上げた。寒がりなのも相変わらずだ。
「いま、温かい飲み物を淹れるよ。上がって」
「...Thanks」
タオルと着替えと、毛布も用意してあげなければ。暖炉に火も入れて、お風呂も沸かそう。
ああ、あと、忘れてはいけないことがもうひとつ。
「おかえり、政宗くん」
この冬を、きみを、ずっと待っていたのだ。
それから、
ひととせ巡る
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