空は曇っていて、塵のような雪が景色を無に染めていく。白く白く、どこまでも色彩を持たないそれは、奥州の冬を一層に寒く感じさせた。

「white christmasだな」

湯気の立つお茶をひと口すすって、政宗様はそう仰った。私には南蛮語の知識はないので、それがなにを意味するのか判らない。
そんな私を見て、政宗様は柔らかく笑う。小十郎様はよく、政宗様のこの笑い方をとても珍しがるけれど、私にはよく向けて下さる笑顔だった。

「ホワイトクリスマス、だ」

もう一度、政宗様がそう繰り返す。

「まあ、簡単に云やあ南蛮の祭りだな。師走の24日がクリスマスイヴ、25日がクリスマス当日」
「祭り、ですか」
「ああ。キリストとかいう神の誕生祭らしい」
「では、異国では今日はお祝い事なのですね」
「yes,chickenやcakeを食ったり、treeを飾ったりして楽しむんだ」

知らないことばを次々と紡ぐその薄い唇は、緩やかな弧を描いている。
南蛮のことになると、政宗様はとても楽しそうにお話になる。私はその半分も理解できないけれど、こうして様々なことを教えて下さるのはとても嬉しい。以前までは異国になんて興味のひとつも沸かなかったというのに。

「で、雪の降るクリスマスをホワイトクリスマスってんだ」
「ほわいと……」
「白って意味だ」

白。なんの色彩も持たぬそれ。清らかな刹那。私はあまり、その色が好きではなかった。否応なしに冬を思い起こさせる。
戦のないこの時期、政宗様は時折そのお顔を苦しそうに歪めることがあるのだ。冷気は古傷に染みると云うし、それともなにか、闇夜のような過去を思い出させるのかもしれなかった。
私は、傍らに在りながら、そんな政宗様になにもしてあげられないことがひどくもどかしいのだ。戦も好きではないけれど、政宗様の痛々しいお姿を拝見するのはもっと辛い。

「名前」
「はい」
「なにか、欲しいものはあるか」

不意に政宗様がそんなことを訊く。少し考えてみるけれど、これといって欲しいと思うものは見当たらなかった。

「なにゆえ、そのようなことを?」
「良い行いをしている者のところにはサンタクロースって名のじいさんがpresentを置いていくんだと」
「ぷれ……?」
「Ah,贈り物だ。何でも欲しいものを呉れるらしい」

胡散臭えがな、と政宗様はどこか自嘲じみた笑みを浮かべた。政宗様の欲しいものはきっと、一番手の届かないものなのだ。

「欲しいものなど、なにも」
「無いのか」
「はい。こうして政宗様と共に在れるのなら、他にはなにも」

そのことばに嘘偽りなどひとつもない。これ以上一体、なにを望むというのか。

「名前、」
「はい」
「こっち来い」
「……はい」

云われた通り、政宗様の近くに寄る。どうなさいましたか、と問う前に温かなその腕に閉じ込められた。とくん、とくん、と微かに穏やかな心音が聴こえる。

「さみいな」
「冬ですから、ね」

これだから、私は冬のすべてを嫌いになれない。人の温かさを感じられる冬が、平和を脅かされることのない冬が、憎たらしくも愛しくもあるのだ。そしてなにより、政宗様が愛そうしておられるのだ。

白は好きではないけれど、淡くともそれを染めてくれるなら、きっと。



the world in white
request by ♯22


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20101231
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