Jun 16小噺


 幸村様の温かくて大きな手が、私の朱い身体を労るように撫でた。
「此度もよき働きであった」
 戦のあと、幸村様はこうしていつも私に声をかけてくれる。私はそれが嬉しくて、また幸村様のお役に立てるよう頑張ろうと思うのだ。多少、酷な扱い方をされたって我慢できる。
「すまぬな、いつも無理をさせてしまって」
 そんな私のこころを見抜いたように幸村様が苦笑した。それから、正座をした膝のうえに私を乗せて、拭い紙を取り出す。
「大切に扱わねばとは思うておるのだが、戦となるとつい血が滾ってしまうゆえ」
 そなたは俺の双腕であるというのにな、と零しながら紙で丁寧にこの刃を拭ってくれる。戦のときの、幸村様の腕から伝わる興奮は、私も大好きだ。きょうはどんな熱い焔を灯し、戦場を駆け、目の前の敵を貫くのか。自分の身体が風を裂くあの瞬間を考えるだけでもわくわくする。
「また、頼むぞ」
 刃全体に薄く油を塗り込めると、丁寧な手つきで私を箱に収めてくれた。手入れの時間はもう終わりだ。蓋を閉められてまっ暗になる前に、私も彼にこころのなかでお疲れさまと小さく唱えた。

武器宿心論
真田幸村の朱羅の場合
2013.05.07


p.s.

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