君の泣き顔 | ナノ

目が覚めれば運良く日曜日だった。あたしは昨日の格好のまま自宅のベッドの上にいた。ふとここで赤司と肌を重ねたときのことを思い出してしまう。あぁやだやだ。朝から胸糞悪い。二日酔いのせいで頭痛が酷い。でも起き上がる。だってトイレしたいもん。そういえば昨日は沢山飲んだな。そしてお店で真太郎に会った。そしてキスしたことがちょっと遅れて脳裏を過ぎった。多分あたしがここに居るのも真太郎が連れてきてくれたんだろう。あぁ、クリーニング代渡さなきゃなんなかったのに。
午前中はダルくて動く気にもなれなくてスマホを片手に時間を潰していた。ふと視界に入ってしまった自分の手首の赤い痕。ったくあいつ、どんだけ力入れてるんだよ。この痕を見るたびにあいつが本気だったことを何度も何度も悟らされて苦しくなる。写真のフォルダを見ても赤司の写真は一枚たりともない。(別に見たいわけじゃないけど。)あるのは真太郎と赤司の間にいた二人の男だけだ。あほらしくなって全部削除したけどね。それにしても赤司は本当に写真に写らない人だな。あいつ自身はあたしをよく本格的なカメラ(一眼レフカメラ?だっけ…)で撮ってたけど。撮るのは好きだけど撮られるのは好きじゃないってお前はアーティストか。事実、あたしには無いあのカリスマ性と魅力は本当に素敵だと思う。あいつもまた真太郎と同じ、あたしの恋愛ヒストリーの中で異色な存在なんだと思う。
*
正午を過ぎ、じょじょに体調が回復しつつあるのでこの汚い部屋を掃除しようと起き上がるが、昨日よりはるかに綺麗になっていることに気づいた。脱ぎ散らかされていたはずの服は洗濯カゴに入れられてて(要するに早く洗濯しろってか。)取り込んで、床に積んであった服たちも綺麗に畳まれてて、食器も洗われていた。こうしてみると昨日までのあたしの部屋は相当汚かったのだと悟らされてちょっと反省。片付けてくれた人物の創造なんてつく。真太郎だ。ご丁寧に携帯電話を忘れて帰ってやがる。
真太郎の今の家なんて知る由も無い。でも実家ぐらいならん何度か連れてって貰ったから知ってる。黒色のシャープなこのスマホはおそらく最新型なんだろう。あたしのは一年半前のだから、最新型がどんなものなのか気になるが、弄るのは止めておこう。…無いと困るだろうな…。クリーニング代払うついでに行こうか。重い腰を起き上がらせ、ボサボサの髪の毛をとかす。真太郎の家行くくらいだったらコンビニに行く格好でも良いけど、流石に実家だからなー…。
*
真太郎の自宅は実家からそう遠くなかった。医者だからやっぱりそれなりの収入はあるんだなーと感じさせられるマンションだ。茶色の無機質で重たそうな扉の前に立ちインターフォンを押す。しばらくすろと出てきた真太郎は少し焦ったような表情を浮かべていた。
『はい、ケータイ。忘れて帰ってたよ。』
『すまなかったな…。実は取りに行こうと思ってたところなんだが…』
ゴモゴモと口篭る真太郎にでこピンをする。
『寝起き?目が眠たそうだね。』
190cm越えの体と扉の隙間を抉じ開け中に入った。そして言葉を失う。き、綺麗だ…。勝手に入室するあたしにいかにかも不満そうな視線を投げかけつつも、扉を閉め、"何か飲むか?"と尋ねてくるこいつは何だかんだであたしに昔から甘いのだ。
『カフェオレ。』
『…どうやってココを知ったのだよ。』
『実家に行ったらお母さんが教えてくれたよー?』
どうやらあたしのことを知ってたみたいだ。(あたしと真太郎が恋人だったことを知ってるかどうかは分かんないけど。)
乱れた布団にはきっとあたしが来るまでベッドの中だったという証拠。
『珍しいね。真太郎が昼間の2時に起床とは。』
『昨日は飲みすぎたのだよ。』
あたしにかえるのマグカップを手渡し、自分用のブラックコーヒーが入ったあの熊本県の人気ゆるきゃらのマグカップを口つける。
『あたしも今日は二日酔い。』
おそらくさっき慌ててかけた眼鏡をかけなおす真太郎を久しぶりに見つめる。こんなにマジマジと顔を見つめたのはいつ以来か。
『な、何なのだよ。』
『いや…。やっぱ真太郎はいつ見てもべっぴんさんだあぁって。』
『そんな台詞、よく言えるのだよ。それに男にべっぴんなんぞ使い方が間違っている。』
『じゃあイケメン?ハンサム?色男?』
はぁと深く溜息を吐き、真太郎は心底嫌そうに繭を顰めた。
『お前はいつもそうやって軽々しく男に言葉を吐いてるのか?』
『どういう意味。』
『頭を使うのだよ。分かるだろ。』
分かるわけないじゃん。高校時代追試三昧だったあたしのこと知ってるくせに。黙り込むあたしにイラついたのか
『言動が軽率すぎるのだよ!!』
といきなり声を張り上げた。でもすぐにしまったという表情を浮かべ"そ、そのだな…"と口篭る。
『…男は時に女の気のこもっていない上辺の言葉さえ真剣に受け止めてしまうということなのだよ。』
要するに単純ということでしょ?そんなの知ってる。あんたがある意味鏡じゃない。そう思ったけど言うのはやめておく。
『何怒ってるの?言いたいことがさっぱり…』
『じゃあ訊くが、昨日何でキスをした?』
困惑と戸惑いと後悔と負の感情が入り混じった真太郎の瞳を直視することができない。



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