君の泣き顔 | ナノ

夕方の6時を回るまであたしたちはカフェに居座り続けた。奏羅ちゃんには二つ上にバレー部の主将をしているお兄ちゃんが居るらしく、月島君のころをよく知っているそうだ。ほかにも幸ちゃんの中学時代について教えてもらったりとなかなか有意義な時間だった。これから二人は服を見に行くと言って大きなショッピングモールに入っていった。あたしもそろそろ夏物欲しいなぁーとか思うんだけど、門限もあるし、先日発売したお気に入りのアーティストのCDを買いにCDショップに寄ってから帰ることにした。
入学式の翌々日ぐらいだった。廊下で月島君とすれ違った。そのときはまだ月島君が同じクラスだとも知らず、ただ大きいなぁと思ってた。でもすれ違う間際に聞こえた彼のヘッドフォンの音があたしの知ってる曲だった。いや、…大好きな曲だった。そこから何となく気になって、同じ教室に居ることに気づいて、何か嬉しくて、目で追ってしまう日々が続いた。これってもうストーカーだよなぁとか思いつつも、彼の醸し出す知的な雰囲気が大好きになった。休み時間によく山口君っていう男の子とよく一緒に居るのを見かける。二人でいつも喋ってるときも月島君はヘッドフォンを付けてる。山口君の声、聞こえてるのかなとか何の曲を聴いてるんだろうとかいちいち気になってしまう。これってやっぱり恋なんだよね…。少し戸惑うけど二人がそういう想いは大切にしなよって。そうだよね、大切にしよう。

CDショップは駅前ということもあって賑やかだ。チラホラうちの制服の人もいる。NEWリリースコーナーに足を運ぶけどお目当てのCDが見つからない。昨日発売なのにまだ店頭に出てないなんて有り得ないよ。隅から隅まで探している途中、あたしと同じように海の向こう側から輸出されたCDを求めやってきたカップルが店員さんに声をかけていた。そっと耳を澄ませば、昨日のうちに完売してしまったそうだ。やはり世界的に今大注目されてるだけあって、売れ行きは上々なんだ。一ファンとして嬉しいんだけど、やっぱりCDが手に入れられなかったのが悲しい。昨日買いに来るべきだった。自分の闘争心があまりにも疎いことに反省する。
『再入荷はまだ先かー…』
しょうがなく二階のレンタルコーナーで何か借りようか。コツコツと音を鳴らし階段を上る。店内のBGMが欲しかったCDだったから余計空しくなる。幸ちゃんが教えてくれた音楽配信サイトで買おっかな。そんなことを考えながら、海の向こう側のアーティストのコーナーを摸索する。元々ピアノをやってたからジャズに興味があったのがきっかけで洋楽を聴くようになった。でも同年代で共有できる人に今まで巡り合えなかったこともあったから、月島君の聴いてる曲が洋楽だと知ったときは率直に嬉しかった。きっと幸ちゃんや奏羅ちゃんもあたしが語れば頷いて聞いてくれると思う。それに二人ともイケメンが大好きだからハマるのも時間の問題なのかもしれない。それでもやっぱり月島君と語り合えればさぞ楽しいんだろうななんてアルファベット順にならぶCDの背中を指で追いながら考えてみる。
やっとのことで決めたCDに手を伸ばしたときだ。誰かの指もこのCDに触れた。咄嗟に隣を向くとそこにはよく見覚えのあるうちの制服を着た男の人がいた。思わず叫ぶところだったから口を押さえた。つ、月島君だ!!
月島君はこちらを見てたけど特に驚くような素振りなんて見せず、CDから手を引いた。
『あ、待って…』
『それ、借りていいよ。』
『そんな、月島君だって今、借りようと…』
月島君は一瞬驚いたような感じだった。多分、あたしが名前知ってるからかもな…。面識なんてないもんなー…。もしかしたらあたしが同じクラスということ自体気づかれてないことだって有りうるのに。
『別にも借りたいのあるし。次借りる。』
そう言って月島君は邦楽のコーナーへ行ってしまった。うわぁ何か物凄く申し訳ないな。でももう一度話しかける勇気なんてないし、ありがたくCDをもってレジに並ぶことにした。次って言ってたけど、あたしが返すときに月島君に伝えたほうが良いのかな。あー…でも話しかけるの怖いなぁ。
『カードはお持ちでしょうか?』
『………』
『お客様ー?』
『あ、はい!』
『カードをお持ちでしょうか?』
気づけば自分の番だったらしく、店員さんの顔があたしを困惑気味に覗き込んでいた。
『あ、ちょっと待ってください…』
そういえばここは会員カードがないと借りれないんだっけ。財布からカードを出そうとあさる。あさるけど…ない。あれ?いくらあさっても出てくるのは有効期限の切れたカードやレシートだった。
『あ、そ、その…』
やだ、どうしよう。せっかく月島君に譲ってもらったのに。小さなため息を吐き、こないだの誕生日にお婆ちゃんから貰った、あたしにはオシャレすぎる財布をしまい"すいません…"と言い掛けた時だ。背後からさっと会員カードが出ていた。手、大きいな…。その手の主の方を見た。そこに居たのは、露骨に呆れた表情を見せる月島君だった。


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