君の泣き顔 | ナノ

多分、傍から見ればあたしも高校デビューをした一人なのかもしれない。中学の頃はこんなにスカートを短くしたことは無いし、高校に入学するまでリップグロスなんて付けたことも無かった。やはり髪型を変えるのは恥ずかしいからそのまんまだけど、今度ヘアアイロンなんて買ってみようかななんて思ってる。
『ていうかさー…うちの高校イケメンいなくない?』
『分かる。何かゴツいのだけ無駄に多いよね。』
友達とこうして放課後にカフェに入るってこともあまりしたことが無かったから、制服で飲むカフェオレは少しいつもと味が違う気がする。
『高校生になったら絶対彼氏作ろうと思ってたのに。』
『やる気失せるよね、あのメンツじゃ。』
『名前は気になる子とかいるの?』
幸(サチ)ちゃんがあたしにそう話しを振ってきた。ボーっと二人の話を耳に入れつつも、ストローを加えカフェオレを見つめていたあたしは"へ!?"と小さく声を漏らした。
『名前の気になる人ってどんな人なんだろー』
『あれだよね、あたし等みたいに顔じゃないんだよ。きっと。』
そういわれてぱっと頭に浮かぶ人物なんてそうそう居ない。でも、少しだけ気になる子くらいは居る。
『う、うーん…』
『えー?名前、秘密主義?』
『つ、月島君…かな…』
月島君は同じクラスの男の子だ。バレー部らしく身長は物凄く高くて、あの知的な感じが素敵だなと思っている。
『月島って…同クラの月島蛍のことだよね?』
『う、うん…』
二人は顔を見合わせて何か言いたげな表情であたしのほうを見た。そして奏羅(そら)ちゃんが"ねぇ…名前?月島のどこが気になるわけ?"と尋ねてきた。
聞かれてみればうまく答えられない。というより気になった部分があまりにも微か過ぎるのだ。身長も高くて眼鏡だってオシャレな彼の魅力は山ほどある。でもそこじゃない。気になったのはそこじゃない。
『…少し…変かもしれないけど…』
あたしが口を開けば二人は"うんうん!"と顔を寄せてきた。
『…聴いてる曲が…一緒なの。』
以前廊下ですれ違ったとき、あのヘッドフォンから漏れていた音をあたしは知っている。はっと我に返り、二人の顔を見るけど二人とも目が点としていた。やっぱり恋に落ちる定義ってものからかなりずれてるんだろうな。あたしって。
『名前って何か可愛い。』
『な、何でそうなるの…』
『まさに純愛。』
『そんな些細なことで惹かれるだなんてあたしには無い。』
『ただでさえ可愛い名前チャンは内面もこんなにキュートってわけね。こりゃあ男がほっとかんわけだ。』
二人が口々にそういっているけど、あたしの耳には入ってこなかった。ただ、こんな小さな切欠を認めてもらえたことが嬉しかった。
しかし二人はアイスコーヒーを口に含み、"でも"と続けた。
『あたしと月島同中だけど…アイツ、性格悪いよ〜?』
『そういえば幸は同中か。』
『アイツの顔に引き寄せられた女の子たちが泣いているのを何度も見たよ。』
今日、山口君は満面の笑みで"ツッキーはかっこいいよ。"と言ってたけど、一瞬にして山口君の満面の笑みが霞んだ。実際話したことも無いわけだし、本当のことなんてわからないんだけど。
『初心(うぶ)な名前チャンはツッキー君を攻略できるのかなー?』
奏羅ちゃんがからかうようにあたしを見た。
『こ、攻略だなんて…』
『そんな消極的でどうすんのよ!』
『アピらなきゃ男なんて気づかないよー?』
『奏羅の言うとおり。』
『でも…あたし、見てるだけで良い。』
見てるだけで幸せです。
『…名前は欲張りじゃないんだよ!幸と違って。』
『あんたもでしょ?』
『あたしは別に男なんて要らないもん。』
『さっきまで高校で彼氏作ろうと思ってたなんてぼやいてたの誰だっけ?』
二人恒例の口論がまた始まった。あたしはこの二人と過ごして、月島君を見ているだけで十分幸せなんだと思う。
『まぁ、応援するよ。あたし。もし酷いこと言われた日にはあの屁理屈男を叩きのめすから。』
幸ちゃんはそう言って腕まくりをした。
『ハハハ、そーいや幸は中学の頃は喧嘩番長だったらしいもんね。』
え?こんなに森ガールみたいにフワフワした幸ちゃんが?とあたしの内心を悟ったかのように奏羅ちゃんは"今の見た目じゃわかんないでしょ?"と笑った。
『そうね。喧嘩はしてたわ。』
今の見た目から想像もつかない幸ちゃんの中学時代。彼女もまた高校デビューをした一人なのかもしれない。



Top
 →novel top
back to main
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -