名前の手首を取った。ジャラっとアクセサリーの音が鳴る。
心がくすぐったい。無防備でしっとりとした二の腕から腰に腕を回し、唇を押し当てた。別に初めてのキスじゃない。
『それよりお前のそのビッチ臭、どうにかしろ。そのまんまだとこんなの日常茶飯事だ。』
五年振りに再会した名前は、男を知っている顔をしていた。
無防備にそして惜しみなく曝け出された手足と、ほんのりピンクのチークのかかった頬はまだ十代だったあの頃の面影と無粋さを完全に消し去っていた。
高校時代、知人の紹介で出会った名前はちょっとした話題を呼ぶアマチュアミュージシャンだった。
見るからに箱入り娘さが漂う名前は、制服だって膝が隠れるくらいの長さのスカートで、色気より上品な雰囲気の少女だった。
そんな彼女がギターを片手に弾き語りする姿とはなんともミスマッチなんだが、なぜが人を惹きつけた。
多分、俺もその一人だった。市内の某有名進学校の生徒だと言うのに夜に親の目を盗んでライブハウスに出はいりしたりとさり気無い悪だった。
黒く艶やかなセミロングとまつ毛は短いがぱっちりとした瞳。
爽やかで愛らしい、まるで新緑のような希望に満ちた歌声とあどけなまるでベビーピンクのような表情はあの頃の俺の心そしっかり掴み、離さず虜にした。
『フン、お前、茶髪似合わないな。』
『あぁ…瑛一君、あたしの黒髪が好きだったもんね。』
以前俺が口説いたときのことを思い出したのか、懐かしむように今はライトブラウンに染まった髪の毛の毛先をつまみ、見つめた。
そんな名前が来月メジャーデビューを果たすと嬉しそうに報告にやってきた。
本当は大学に入る前にオファーがあったが、両親の猛反対により断念した。
だから念願のデビューを控えて名前は頬が緩んでいた。
『それより瑛一君』
『なんだ。』
『今、あたしのこと心配してくれたの?』
『…そうだな、お前のようなバカが似合う女がそんな露出した格好でうろついてみろ。何かされても仕方ないだろ。』
『何かさー、それ褒められてるのか貶されてるのかわからないんだけど。』
肩をくすめ、名前は俺を見上げた。
『一生わからんだろうな。』
『でもね、あたし瑛一君になら何されてもいいかも。』
どこで覚えたのか。色っぽい笑みを浮かべた名前。あの頃のあどけな表情はもう無い。いつか消えゆくベビーピンク