君の泣き顔 | ナノ

征君がデートにゲームセンターを選んだとき、正直驚いた。いつもあたしの買い物に付き合わせたり、征くんが本屋に行くのに付き合ったり。まだ付き合って3カ月だからしょうがなかったのかもしれないけど、まさか付き合って3ヶ月目のデートがゲームセンターだなんて。意外の一言に尽きる。(本人は記念日だなんて決して言わないけど。)

だから彼が真剣な眼差しを本でも将棋の駒でもなくあたしでもなく、クレーンゲームに注いでいるのはかなりカオスな光景だ。
『さ、さすがだね。征君。』
たった500円で大きなぬいぐるみを2つもとってしまった。彼のあまりのすごわざに周りのガキンチョや人々が集まってきた。
どんなに遠くから見ても非凡なオーラを放っている彼を近くで見て、惚れ惚れしないわけがない。
『凄ーい!』
征くんが神技を淡々とこなすたびに、周りの人々の歓声が大きくなる。つまらなくないと言えば嘘だ。征君の隣、あたしのはずなのに。

嫉妬なんてする柄じゃない。男が女にひたすら尽くす状況でいままで過ごしてきたせいかこういうのが苦手だ。

足が疲れた。クレーンゲームのコーナーから離れ、ソファーに腰かけた。こうして遠くから見ると赤司征十郎って凄いなって思う。バスケから将棋、クレーンゲームまでこなすなんて。

『探したよ。』
『疲れたから…休憩してた。』
『そう。』
征くんはあたしの隣に腰を下ろした。
『これ、』
彼があたしに差し出したのは、俗に言うぶさかわなぬいぐるみだった。不貞腐れたような、可愛くないぬいぐるみだ。
『何?』
『…君に似てるなって思って、取ってみた。』
『あたし…こんなに不細工な顔してない。』
『あ、ごめん言葉不足だったようだね。今の君にそっくりだと僕は言いたいんだ。』
『はぁ?』
眉を顰めた。いくら学校でもどこでもリスペクトされてる赤司征十郎様様でも女子に向かってこんなこと言っていいのか。駄目でしょ!?さすがに悲しいよ。
『…いじけてるでしょ?今。』
『別に。』
『…君、ホント恵まれてる。嫉妬するくらい。』
『どういう意味?』
『尽くされて、幸せに生きてきたんじゃないかって思う。』
確かにそうかもしれない。あたしは今まで特別な才能とか特技には恵まれてなかったけど、人だけには恵まれてた。両親だって男だって友達だって。だけどそれを自分で肯定することはできない。
『だから少し意地悪してみた。君が嫉妬しちゃうようにね。』
征君はふと肩の力を抜き、口元を緩めた。
『…征君って意外とガキ。赤司様様のくせに何嫉妬してんの。』
『その赤司様様ってやめてくれないか?』
らしくない弱弱しい笑みを浮かべる征君にあたしは容赦なく言い返してみた。彼が見せるこの弱弱しい顔はおそらく見たことあるのはごく少数のはず。その中にあたしも含まれてるんだなと思うと正直嬉しい。
『僕だって人間だし、嫉妬くらいする。』
『あたしだってしてる。』
嫉妬されたくないわけではない。でも嫉妬なんてしたくない。
『名前の言う通りだよ。僕は、ガキだ。』
『あ、そこ認めちゃうんだ。』
『ここで意地張っても意味なんて無いだろ?』
『…うん。』
『僕の私欲で振り回してすまなかった。』
『じゃあパフェと駅前のマードレーヌ奢ってね。』
『分かった。』
さっきよりも少し可愛く見えるぶさかわな人形を左手に抱え、右手を征君に差し出した。
『ほら、繋いで。』
『…あぁ。』



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