君の泣き顔 | ナノ

『お前は掃除一つもできないのか!』
リヴァイの怒号が名前を襲ったのはついさっきのことだった。新しく調査兵団となり、リヴァイ班に配属された名前は、とりあえず座学も戦闘も周囲より長けていた。しかし彼女の難点は、今までどうやって日常生活を安全に送ってきたのかというくらいのそそっかしさだ。何も無いところで転ぶのは日常茶飯事。食卓の準備を手伝わせれば、料理の入った皿をこぼす。やる気だけはあるみたいだが空回りばかりする彼女を毎回の如く叱るのが、リヴァイだった。"お前はそれでも女か?!" "どうしてお前が訓練兵として10位以内で卒業できたのか俺には分からん"など名前に対しての侮辱のレパートリーは豊富だ。兵長も懲りないなー…。他の隊員はそんな感じで二人のやり取りを見つめるほど日常化をされてしまった。

『そんなに怒鳴んなくても良いのに…』
ボソリと零した愚痴を聞いたものはそこには居なかった。地下室を一人で掃除していた。名前にしてみりゃ、蜘蛛の巣もしっかり取り払ったし、ゴミも掃いた。雑巾を隅々までかけたのに。リヴァイは"汚い!汚すぎる。これで掃除をしたというのか?"と怒鳴った。
『そんなん言われても…これ以上どこをやれって…』
自分に対して怒ってばかりで褒められたことは勿論、侮辱以外の言葉を投げかけられたことはなかった気がする。元々褒めて伸ばそうとかそんな考えが毛頭無い人で、嫌なものは嫌、駄目なものは駄目。はっきりしている。言い方を変えれば躊躇のない人だ。そんな彼への尊敬は厚い。名前だってその一人だ。一、巨人と戦うものとしては尊敬している。彼の班に所属できたことを誇りに思うくらいだ。
『クッソチビのくせに。』
身長が170p越えしている名前にとってリヴァイは十分小さかった。今まで身長がデカいことはコンプレックスでしかなかったが、今となれば訓練のときだって都合が良いし、リヴァイにこのネタを持ちかけてバカにだってできるから良い方向に作用している。

これ以上どこを掃除する必要があるのか。部屋中見渡すが、名前にとっては完璧である。
『文句言うなら自分でしろっつーの。』
とりあえず薄暗い部屋の中にひっそり佇む花の水でも代えることにした。
『日光全然当たんないのに元気だねー…』
見るからに高価そうな花瓶だった。白を基調としてて、上品に散りばめられた点描模様は、暗闇の中さぞ目立っただろう。
しかし悪い癖がこの時運悪く襲ってきた。
『あっ、』
シンとした部屋に響いたのはガシャンと紛れもなく花瓶の音で、名前の頭は一瞬にして真っ白になった。
どうしよう、兵長を呼ばなきゃ。
『どうした?』
『へ、兵長…』
振り向いた。リヴァイ兵長が仁王立ちしていた。走って降りてきたのか肩が少し上がっている。やはりそれほど大事な花瓶だったんだ。一瞬にして悟らされた。
『お前…』
こけた状態の名前に哀れな視線を向け、次に割れた花瓶に目を向けた。静かにかたずをのむ。
『…危ないだろうが!』
やはり怒号が響いた。次の言葉くらい予想できる。クソドジ女、がさつ、あぁもう何度もこんなやり取りしましたよね。
『…大丈夫か?』
目をしっかり瞑って次の言葉を待っていた。しかし意外にも優しい声色が名前を包んだ。リヴァイの手が名前の手を取り心配そうに見つめた。
『へ…兵長?』
『なんだ。』
『お、怒らないんですか?』
逆に名前が心配そうにリヴァイを見つめた。するとリヴァイは一息吐いてから怒鳴った。
『どうしてそうそそっかしいんだ!このクソ大馬鹿が!お前には用事一つ頼めん。』
"でも…"
リヴァイは続けた。
『怪我しなくて良かった…』
まるでいつものリヴァイでは無いようだった。声の感じも素っ気ないけど優しさが込められてる気がする。
『でも、あたしは調査兵団に入団した時点で覚悟決めてますから。顔に傷を負うこと。』
こんなことを心配するがらじゃない。しかし感心もする。こういうところは誰よりも頼もしいのが名前だ。
『馬鹿言うな。任務以外で体に傷を付けるんじゃねぇよ。…お前、一応女だろ。』
リヴァイにとって最大級の優しい言葉だった。
そのことを然らず悟った名前は少し、嬉しかった。
『…でもちょっと待ってください。』
『は?』
『一応ってどういうことですか!?』
『フン、図体がそんなにバカデカかったら当然の言われようだろ。』
『女は体じゃないです!それに見てください、髪の毛だって結ってますよ?』
『お前はそもそも性格、行動的にもはや女じゃ…』
『兵長!!』
ぎゃんぎゃん喚く名前を見て彼は少し口角を上げた。

titel:確かに恋だった


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