君の泣き顔 | ナノ

『先輩、彼氏と海に行くんですか?』
大学時代の後輩である清香はキャンパス内でも美女だと有名だった。小学校から高校まで特にこれといった趣味が無かった彼女が名だけと名前の所属する理科研究部に入部してしまったのは3年前のこと。誰よりも面倒くさそうだった彼女が名前の熱心さに魅せられ、今では名前に負けないくらい熱心に日々放課後は顕微鏡と睨めっこしている。
二人は今でもこのようにして会う仲だ。今日はホウセンカの種子についてのレポートを見せに、名前宅兼L大学院の研究室にやってきた清香はポテチを頬張りながら声をあげた。
『うん。』
『…彼氏、居たんですね。』
『居るよ?』
二日平気でお風呂をすっぽかしたり、ボサボサの頭やダサいCMTシャツのようなものしか着ない彼女に何故恋人ができるのか、清香は正直疑問でたまらなかった。
『どんな人ですか?写真でも見せてくださいよ。』
『やだ。』
瑛一と名前の交際は絶対的秘密で、二人以外の人に知られてはならなかった。故、どんなに親密な仲の人でも教えてはならない。名前は正直瑛一の今の地位というものが把握できていなかったが、とりあえずこのことが外部に漏れることによって彼に迷惑をかけてしまいかねないことを重々承知していた。
『えー、良いじゃないですか!』
『駄目なもんは駄目。』
『身長は?』
『んー…高いよ?』
『スタイルは?』
『…クラクラするくらい良いよ。』
『要するにイケメン?』
『多分。』
以前人体学の為に瑛一の体を隅々まで拝見させてもらったことのある名前はそのときのことをふと思い出し体が火照った。色白でしなやかな筋肉の背中や腕は、名前を虜にし、赤面を食らわせたのは言うまでもなかった。
『今度紹介してくださいよ〜』
『や。』
"続いては今人気急上昇中のHE☆VENSのライブの密着取材です。"
その時だ、付けたいた午後のワイドショーに見覚えのある顔がはっきりと映った。
『うっ…』
『どうしたんですか?』
名前の視線の先を見て清香は『あー、HE☆VENSだ!』と目を輝かせた。普段このような時間にTVを見ないし、見るとしても深夜のN●K位の名前は瑛一をまともにTVで見るのは初めてだ。
"初の広島ライヴというわけでファンサービスもいつも以上。"
『先輩、見てよ。あの人鳳君とハグしちゃってるよ?羨ましすぎる!』
(うぉおおおい!!)
凛佳は言葉を失う。
『HE☆VENS凄い人気ですよねー…私、綺羅君推し。先輩は?』
清香の声などまったくもって届いておらず、名前はただ険しい顔で画面を凝視していた。
『名前先輩?!』
『あ、はい…』
『どうしたんですか?!そんな険しい顔して。』
『いや…』
な、んなわけあるのか?このあたしが…。自身の中に渦巻く感情に名前は戸惑う。覚悟はしてた。アイドルという職業をそれなりに知っているのだから。過った"嫉妬"という類の感情を振り払うように、首を激しく横に振る。
名前はリモコンでTVの電源を消し、立ち上がる。
『ちょっと消さないで下さいよー…』
『ねぇ、ちょっと今から付き合ってくれる?』
『え?どこにですか?』
『水着、買わなきゃ。』
面白くないと思っている自分を打ち消すように名前はくしゃりと笑みを取り繕った。



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