君の泣き顔 | ナノ

『海と山、どっち派だ。』
いきなりそう投げかけられたお風呂上りの名前は迷わず海と答えた。
『魚って…可愛いよね。個人的にはヒラメよりカレイ派。それに棘皮動物とか生物学的に興味深いし。』
『棘皮動物って…。ウニとかナマコとかわざわざ見に行くんじゃないぞ?』
『う…』
『そんな顔するな!そもそも海にウニを見に行くやつがどこに居る?えぇ!?海は泳ぎに行くところだ!』
持っていた山と海のパンフレットを机に置くと、瑛一は名前を叱った。
『…何か、瑛一君に説教されるのってムカつく。』
『俺もこの日ばかりは名前の理科マニアっぷりには付き合わんぞ。』
バスタオルをターバンのように頭に巻き付け、名前は化粧水をつける。
『何?もしかして休暇でも貰えたの?』
『あぁ。』
ソファの上で口角を上げて微笑む瑛一に"うっそぉ!?"と歩み寄った。普段、基本的に素っ気ない彼女にオーバーリアクションを取らせることは地味に瑛一の快感だった。
『凄い…』
『俺だって人間だ。たまには休みたくもなる。』
瑛一の思惑は2泊3日の海へのバカンスらしく、海(主に生物)が大好きな名前はこの時ばかりは素直に大喜びした。
『初めてだね、旅行とか。』
『そうだな。なかなか時間も取れなかったし。』
HE☆VENSとしてデビューをしたのはつい最近だが、10代の頃から芸能活動をしていた彼とはスケジュールが上手く合わず、二人はデートなどしたことが無かった。
『でも久しぶりの休暇なのにしっかり休まなくて大丈夫なの?』
『…俺にとって休暇は、お前と一緒に過ごすことだ。俺の体を気遣うなら、この旅行付き合え。』
ホント、いつでも上から目線だなと半分呆れながらもうなずく名前の頬はやっぱり緩みっぱなしで、普段はあまり感情を露わにしない彼女だからよほど嬉しいことが伝わってくる。
『それと…水着、持ってるか?』
『…中学の頃のスクール水着なら。』
『は?』
『中学で成長が(色々と)止まってるから、入ると思うけど。』
『いや…、ビーチでそれを着るのか!?』
あの鳳瑛一が焦った顔を見せた。彼が世界のどこかでこんな顔をするなんてファンの誰が想像しただろう。
『あたし、スクール水着しか着たことない。』
『だろうな。』
しばし名前を見つめて頷いた。
『それ、どこ見て判断してるの。』
『胸。』
即答過ぎる!ガクンと肩を落とし、自分の胸元を見つめる。寂しすぎるその胸板には色気などこれっぽっちもなかった。
『…70のAAか…』
唸るように瑛一が呟く。
『ちょっと!何で知ってんのよ!』
真顔で適格にサイズを当てられるのは実に屈辱的なものだった。
『俺が今日まで何回お前の胸を揉んできたと思ってるんだ。』
『サイッッテー!!!』
大したことない(勿論自負済み)胸元を抑えながら、手元にあったワイン色のクッション(瑛一からのプレゼント)を思いっきり当人に投げつけた。しかしそれも彼の腕に収まり、名前の怒りは不完全燃焼で終わった。
『出発までに新しいのを買ってくると良い。』
含み笑いを浮かべる彼の顔を見ると、”ホント意地悪すぎる”と名前の頬は更に膨れ上がった。
『ちなみにだが、俺はこのクッションのようなワイン色が好きだ。』
『はいはい、分かりましたよ!』
要するにワイン色の水着買ってこいってことね。ドライヤーで髪の毛を乾かしながら、名前は水着はやだけどやはり楽しみでしかたなかった。


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