烏野を受けた理由なんて本音を言えば"ツッキーが受けるから"だった。特別勉強しないと入れないというわけでもないレベルの学校なわけで、中3の頃は周りの人より比較的にゆとりのある生活をしていた。そして一応合格してここに居る。ツッキーは俺をおいてトイレにいっちゃったし、周りの席の奴らだって話かけるほど仲良くなってないわけで、頬杖をつきながら、散りかけた桜がよく見える窓際を見つめる。
『あのー…山口君?』
『は、はい!』
桜に気をとられてた俺の意識が急に引き戻された。ツッキーかなと思ったけど明らかに違う。鈴が鳴るような可愛らしい声色だった。
『山口…忠君、だよね?』
『う、うん。』
振り向けば、黒くて艶やかなストレートの髪の毛を胸元まで伸ばしてて目もくりくりした可愛らしい女子生徒がいた。色白の肌と遠慮がちな表情をもつ美少女。せ、清楚すぎる!あぁ、もうカル●スウォーターのCMに出ろよ。
『あ、あたし苗字名前です。同じクラスなの。よろしくね。』
『うん。』
ヤベ、俺、さっきから苗字さんの美しさに押されて、返事しかしてねぇよ!ていうかこんな美少女が同クラって何で気づかなかったんだよ!
『一つ…聞いても良いかな?』
『も、勿論だよ!』
頬杖を止め、手の甲をさり気無くズボンで拭いた。
『山口君は…月島君のことどう思う?』
『え?ツッキーのこと?』
『いつも一緒に居るのよく見かけるから、山口君はどう思うのか知りたくて…』
苗字さんは髪の毛を耳にかけて真っ直ぐ俺を見つめてきた。何か照れくさくてやめてくれよと思う反面、男心が擽られる。
『…もしかして苗字さん…ツッキーのこと…』
ゆっくりと頷く苗字さんは物凄く可愛い…。俺、こんな美少女と話せて今日、めっちゃ幸せ!ていうか、こんな子に想われるツッキーがめちゃくちゃ羨ましい。
『だ、誰にも言わないでね?』
『大丈夫。』
秘密は硬く守られます。なんてね。
よく考えてみればツッキーがどんな人かなんて質問されたことなんて無い。ツッキーは黙ってればただのイケメンだから、ようするに表面がめちゃくちゃ良い。だからモテまくり。周りからはクールなイケメンとかインテリ男子とか思われてるみたいだけど、実際酷い。うん。かなり酷いよな…。友人の俺が言うのもなんだけど。でもココは勝手にツッキーの株を下げるわけにもいかないわけで、"まぁ、俺から見てもツッキーはかっこいいよ。"とだけ言っておいた。
『そっか…』
『まぁ時々口悪いけど。』
主にターゲットは日向や影山だけど、隣で聞いてる俺もヒヤヒヤするよ。苗字さんは"ありがとー"と手を振って自分の席へ戻っていった。俺もたまらず手を振り返す。あー、ツッキーってばホント羨ましい。