君の泣き顔 | ナノ

聞けば男の人は付き合う前までらしい。熱く、焦がれてくれるのは。付き合い始めてからは、意中の相手が手に入ったことに安心感を覚えてか、急に冷たくなる。あたしの恋人もそうなのかもしれない。もっとも、最初から熱い人では無かったけど。
誕生日やクリスマスやバレンタインもすっぽかしそうなあの人はやはり今日も大事な日だというのに電話もくれないし、会いにも来ない。日付が変わる30分前になっても鳴らないケータイとインターフォンに苛立ちを感じるが、グッと抑えて"今吉翔一"に電話をかける。
『もしもし?』
『おー、名前ちゃん。こんばんわ。』
何がこんばんわだ。このおっさんめ。電話越しの暢気な声に更に苛立ちを覚える。
『こんばんわ。』
微かに電話越しに聞こえるテレビの音はお笑い番組。あたしの家庭は昔からお笑い番組とかそういうバラエティはあまり見せてもらえなかったから、翔一さんと付き合うようになって、初めて見たときの衝撃を思い出す。下ネタばっかりで全くもって楽しくなくて、嫌悪感に満ちた。
『どないしたん?こんな夜遅くに。あかんで〜?夜更かしは。名前ちゃんの美貌が廃る。』
誰の所為でこんな時間まで起きてると思ってるのよ。そんな思いはゆっくり飲み込んだ。そしたら頭の中が真っ白になって、言葉が出ない。
『…名前ちゃん?』
『…そ、その、翔一さんは…仕事とプライベート…どちらを優先させるタイプですか?』
『…何でそんなこと聞くん?』
『今度の企画で、"働き盛りの男性事情"についての本を出版したいらしくて…参考までに教えていただければなーと…。』
『うーん…どうやろー。名前ちゃんはどう?』
『どちらかと言えば仕事ですかね。』
『ハハハ、名前ちゃんらしいなぁ。ワシ、好きやで?名前ちゃんのそういうサバサバしたところ。』
こんな薄っぺらい言葉に乗るほどあたしは軽くない。それにサバサバしてるからって恋愛にドライなわけじゃないのに。翔一さんの馬鹿。
『でもね、プライベートも物凄く大事に思ってます。』
それは多分、翔一さんと交際を始めてからだ。
『そっか。まぁ大事やで?自分の時間は。』
『…そうですね。』
『ワシは五分五分や。』
『五分五分…ですか?』
『どっちも崩れん程度に手ぇかけて、でも必要以上にのめり込まないんや。』
"だって面倒やろ?"ハハハと笑う声はやっぱり薄っぺらくて嫌だ。
『じゃああたしのことも面倒ですか?』
行っちゃ駄目って分かってるのに、この人はこうなんだって分かってるのについ口が滑ってしまった。一瞬、向こう側のお笑い番組の音さえ聞こえなくなった。黙らないでよ…。
『…名前ちゃん…あんなー…』
『翔一さんは一体何にだったらのめり込めるんですか?何にだったら夢中になれるんですか?』
どうせ煙たく思われてるのは知ってるし、怖いことなんて無い。
…そんなのやっぱり嘘。
『名前ちゃんかなぁ…』
『は?』
『内弁慶な名前ちゃんを焦らすのは楽しいで?どん位焦らせば本音を言ってくれるか、日々考えとる。』
"今日だってそうやろー?"と翔一さんの楽しそうな声と様子が伺える。動揺は直ぐに鉛に変わった。あぁ…やっぱりこの人はこうなんだ。って。
『名前ちゃんに電話、催促させよう思っとったんよ。そしたら案の定成功した。』
おそらく電話越しでただでさえ細い目をもっと細めて笑っているに違いない。それにあたしの気持ちなんてお見通しだったみたいでムカツク。
『…べ、別に内弁慶なんかじゃ…』
『ホンマぁ?』
そこで"うん"と頷けない自分が悔しい。どこかで本当は翔一さんに距離を置いてて、これ以上近づくのを怖がってるのは事実だから。
『もう良いです。そうやって試されるって気分が悪いです。おやすみなさい。』
こうして怒ったままで電話を切っても、次喋るときはどうせお互いケロッとしてる。いや、あたしの場合はしてるフリなのかもしれないけど。それでも許せるのは愛のおかげ?それとも距離の所為?
『なぁ、名前ちゃん…』
『はい?』
『今日で付き合って一年…。意外と早かったな…』
急のしみじみとした雰囲気に戸惑いつつもあたしは"そうですね…"と答えた。薄っぺらく手抜きなこの恋の裏には"思いやり"がきっとあるんだ。離れたときに、しっかり生きていけるように。

確かに恋だったbot様よりお借りしたお題です。この言葉を見つけたときに思い出した人物は赤司様、花宮、そして今吉さん。AB型組です。(たまたまだろうけど。)でもこの三人の中でも群を抜いて手抜きっぽいのは今吉さんのような気がします。だって我が家の花宮は何だかんだで甘えん坊ですし、赤司様はとっても紳士(かなぁ?)ですし。どっちも崩れん程度に手ぇかけて、でも必要以上にのめり込まないんや。これは原作から読み取れる今吉さんをポエミィにしたものです。こういう人ってどこかで自分は寂しいやつだと弁えてるらしいですよ。大人ですね…。そしてそして…恋愛にドライという今吉さんのイメージを壊さないように、でも心の中でもがく、おそらくバリバリのキャリアウーマンであるヒロインちゃん。今吉さんの言う通り"内弁慶"な子なんです。二人の空ろな恋愛こそがきっと"手抜きだらけのラブロマンス"なんだと思います。はい、そう信じたいです。ちなみに言いますと、二人の年齢差は今吉さんが3つ上ってことになってます。ていうか…子のお話執筆中のBGMが"とある信者の果敢な毎日"ってどういうことだよ。



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