君の泣き顔 | ナノ

「えーっと…元気出しなって」
「…」

学校の机というやつは、ぬくもりの一つもその身に宿しておらず、ひどく冷たい。
俯せになっていれば当然触れる皮膚があるわけで、そこから体温が奪われていっているような気がする。

「ほっぺ…冷たい、」

ポツリと呟いて徐に体を起こすと、私の頭を撫でていた友人の手が離れていった。

「彼女いるようには見えなかったのにね…、というか若干ネクラかと思ってたんだけど」
「そんなことないっ!」

ケータイを片手に、机の上に腰掛け話す彼女が、深い意味では発した言葉ではないということぐらい、周りからすれば一目瞭然であるだろう。
そうであったとしても、今の私にはそんなこと、どうでもよくて、ただ自分の好きな人がばかにされたことが耐え難かったわけである。
例え、数分前にフラれた相手だとしても、だ。

「ちょ、…そんな泣きそうなかおしながら叫ばないでよ…私が悪いみたいじゃん」

液晶から私にピントを合わせ、慌てる彼女に言ってやりたかった。
あんたのせいだ、と。
けれど、昼休みも残り5分となり、ぞろぞろと戻ってくるクラスメイトたちからの視線がそれを阻む。
私は内心もやもやとしたまま、もーいいと捨て吐いて、再び机に突っ伏した。

「ちょっとー…あ、木吉!いいところに戻ってきてくれたわ」
「お?何だ?この飴ちゃんが欲しいのか」

机と対面したその直後、気の抜けるような声が響いた。
隣の席の木吉が戻ってきたらしい。

「いらないわよ…しかも黒飴って、あんたはばあさんか」
「それを言うならじいさんだな!」

頭上で繰り広げられる二人の会話を聞き流しながらも、フラッシュバックしてくる、ついさきほどのこと。


気持ちを伝えた瞬間、
すごく、困ったような表情を浮かべていた彼の表情が、まぶたの裏に焼き付いて離れてくれない。
彼女がいるなんて、知らなかった。
困らせたかったわけじゃないのに、

『こんな俺のこと、好きになってくれたのに…ごめん』

そう告げた彼は涙ぐんでいて、私はただううんと首を横に振っただけ。
泣きたかったのは、私の方なのにな、
でも、そんな優しい人だから好きになってしまった。


「…じゃ、名前のこと頼んだからね、」
「おう!まかしとけ」

周囲のクラスメイトたちが残念そうな声を上げるのが耳に入ってきて、ああ午後の授業が始まるのかと、身を捩る。
カタンと隣の男が席に着いたのだろう音を聞いて、反対に顔を向けようとした時だ。

「っ!」

己の頭に感じたぬくもりに、目を見開く。

「あんま泣くと、ブサイクになるぞ」

ゆっくりと、乗せられた手のひらが頭を撫でている。

「ほっといて、…どうせブスだもん」

俯せのまま、絞り出した声は想像以上に小さくて、なんだか情けない気持ちになった。

「…ほっとけないから、こうして構ってんだけどなぁ」

思わぬ言葉に、びくんと肩が跳ねる。
やめてほしい、こういう感傷的なときに意味深なことを言うのは。
黙ったまま、聞こえないふりをする。

「ま、俺にはお前が可愛くみえて仕方ないんだけど、」
「っ…」

耳を塞ぎたくなった。
なんだよ、いつもは意味わかんないことばっか言ってるくせに、

「…名前、元気になる魔法の飴ちゃんやるから、こっち向けよ」

頭を撫でていた指先が、一房私の髪を掬い取る。

「、引っ張らないで、」

絶対、今顔赤い
目を合わせないように、泳がせながら木吉を見上げると、

「これ舐めて、元気だせ」

空いている方の手が、私の唇に触れた。

お一つどうぞ

舌に伝わるのは甘ったるい黒糖の味、

(「…ありがとう、」)

(「おうっ!…そうだ名前!言い忘れてたんだが…」)

(「?」)

(「オレ、お前のこと好きだ」)

(「っ!?」)



Lyraの缶田様に揚げていただきました!木吉さんのお話です!本当にこれぞ愛岸の求めていたもの!!!!とハイテンションで読ませていただきました。お持ち帰り遅れてすいません。これからもよろしくお願いします!


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