君の泣き顔 | ナノ



『何かさ、世の中って不平等なのか平等なのかわかんないよね。』
どんなに頑張っても報われない人。頑張らなくても報われる人。良い例えといえば、学生の部活動とかならわかりやすいのかもしれない。基本的技能、スペックが元から高い人ほど凡人との差が明確。凡人は秀才にはなれるけど、天才にはなれない。やはり生まれ持った素質は一生の宝だ。健康な歯と同じでね。

『特にアンタを見てるといつも思う。』
残暑の激しい年のことだった。今年はオリンピックイヤーということもあり、高校教師の名前も夜遅くまで、中継を見ていたため少し寝不足の日々が続いていた。
今日は以前の教え子と酒を交わしていた。たった二年前までは自分の生徒だったやつと酒を交わすのは少し不思議な気分だけどなかなか良いものだ。
降矢凰壮は高校を卒業して翌々年にオリンピックへ出場した。今では日本柔道界の期待のルーキー。何せ母親が元メダリストらしく、そのプレッシャーとやらは名前にとっても未知の部分もあった。
彼は柔道をするときはとても凛々しい顔をする。TVなどでも取材されたりするとき用にひたむきで真面目な選手像のほうが都合がいいからだろう。でも名前は本当の凰壮を知っているつもりでいた。
『スペックは周りより高いはず、才能だってないわけでもない。沢山のプレッシャーを背負ってて、過信するわけでもないけど自信が無いわけでもないのに。何でだめなんだろうって思うでしょ?』
『まぁね。』
『あたしはアンタを最初見たとき、秀才だけど天才ではないと思ったよ。』
『それ、どーいう意味?』
『授業とか聞かなくても模試はいつも良いし、何もしなくても呼吸してるだけで女は寄ってくる。これってある意味凄いことだと思う。』
『確かにこの二つで苦労したことはねぇな。』
ドヤ顔を向けられた名前は目を細めて睨んでやる。まったく。これからイケメンは・・・。
『柔道だってさ、アンタは元々体格良いから有利だし、運動神経も良いから初めは簡単だったでしょ?』
凰壮はグラスに口を付けながら頷いた。
『でも・・・何か越えられない壁があったんじゃない?』
凰壮は思う。この元ヤリマンアホヤンキー教師の癖にどうしてここまで自分のことを理解し、的確なアドバイスをくれるのかと。高校時代から、友達みたいな距離だったから、今更尊敬とか言ってられないがやっぱり心のどこかでは尊敬して、頼っているのだ。
『ね?』
押しを利かせるように顔を覗き込む名前。すると凰壮は気まずそうにボソリと何か呟いた。でも小さな居酒屋故、周りの雑音で掻き消されてしまった。名前は無理に聞き返さなかった。少し思い当たる節があったからだ。
『その壁はアンタがどんなに努力しても壊せないかもしれない。それでもアンタは今まで練習を沢山沢山してきたでしょ?』
勉強なんかよりも女なんかよりも柔道に時間を使っていたことは知ってる。それでも報われないなんて・・・やっぱりこの世は不平等だ。
『その過程が大事。結果が出なくたって、アンタの頑張りを知ってる人は沢山いるから。先生だけじゃない。アンタの両親も兄弟も友人も。ね?』
だから少し立ち止まって休みなよ。それからでも遅くない。金じゃなくて銀で良いんだよ。十分誇りに思えるんじゃない?
『銀メダル、おめでとう。先生にもかじらせてくれない?』
目を細めて笑う名前。
凰壮は”かじるのは無し。と言いながらオリンピックで手にした銀メダルを名前に手渡した。
My brother is bigger than mind
『・・・なんかありがとな。名前。』
『いやいや。先生って呼べよ!』
(超えられないのはきっと”兄弟”)


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