貴方の手が頬を包む。

「許されてほしいとでも?」

貴方の手が耳を包む。首筋を包む。肩を。二の腕を。また、頬。瞼をなぞる親指はきっと世界中の誰よりも優しい。わたしは泣いてなんかいないのにまるで涙を拭うような仕草をするのね。そうして何もかもを拭い去ってはくれないかな、貴方に触れられると全てが許されたような気持ちになるのよ。

愛してしまったのだ、彼を。わたし達は友達だった。自分が愛されていないことは知っていた。ただ少し彼は揺らいでいて、わたしの意思は弱かった、それだけのことだった。こんなに長く一緒にいるのに初めて聞いた、吐息を含んで低い声、イタチが女を誘う声。

「そう。だから」

拒んであげればよかったね、可哀相に貴方は己を苛むものをまたひとつ負うことになる。わたし達はひっそりと互いの為に祈り続けてきたというのにもうお仕舞いで、これは本当に悲しいことだ。嘘。本当は歓んでるよ。わたしの為に少しだけ傷ついてほしかった。ちゃちな錯覚など醒めてしまうのは知っていた、後悔することも知っていた。可哀相に貴方は友人に恵まれなかった。貴方の友人はこんなにも愚かだったのよ。

イタチはありもしないわたしの涙を拭いたがった。彼は愚かであることに慣れていなかった。交わすべき言葉はどこにもなくて開いては閉じる口と口の隙間から漏れる空気の温度によってわたし達はいつもより少しだけ素直におしゃべりをする。わたしのこと好き?/好きだよ。じゃあこういうことをするとき女が目を閉じているのは何故だかわかる?互いの嘘がばれるからよ。

「謝らないでね」

真綿で首を絞めるような台詞をやすやすと吐いて、これが至福なのよと口には出さず晴れやかに笑ってみせよう



〆本当は泣きたかった

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