あれ、泣いてる人がいる。


病院の売店つきのラウンジでわたしは順番待ちをしていた。窓ぎわの席をとり安いコーヒーで手を温めていたところに彼はやってきた。

窓に歩み寄って空を仰ぎ見た。握り締めた拳をガラスに強く押しあてた。うつむいた。噛み締めるように息を吐いた。白い指が力なく顔を覆った。一連の行動はすべてわたしの目の前で行われたのだけれど眼中にないようだった。

おもむろに彼は顔を上げて再び外を見やり、やがて長い時間をかけて呼吸を静める。時折思い出したように瞬きをする様子は、何かを諦めきれないようにも、とっくに諦めているようにも見えた。
はじめは彼が泣いていると思ったものの実際のところよく判らなかった。涙の跡こそないけれど、その横顔は今までに見たどの泣き顔よりもやる瀬なくこわばっていた。とても放っておけなかった。「ねえ、」
首を傾けて大きな双眼がわたしをみとめた。黒い瞳がいやに深みをもっているのは濡れているから? 泣いている? わからない。
「コーヒーでも、飲みませんか」
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