雨の降りしきる夜だった。
屋根から滴る水の音に混じって、水溜まりを踏む人の足音が聞こえた。
足音はのろかった。
一歩一歩をためらうように近づいてくるのだった。
ぎい、
そっと入ってくる。
わたしは迎えようと玄関に立った。
デイダラがそこに立っていた。
頬から、鼻から、顎から、袖から、指先から、雨が滴って床を光らせていた。
髪も服もしとどに濡れて重そうだった。
「………」
まるで親とはぐれた子どものような声で彼はわたしの名を呟いた。
わたしは彼に近づいていって、黙って聞いていればよかった。
「旦那が死んだ」
それだけ言って、デイダラは一度大きく震えた。
自分の言葉に打ちのめされたのだ。
「死んだんだ」
それでもなお言うデイダラの、その手がわたしに届くよう、わたしはもう少し近づいた。
デイダラは恐る恐る両の手を伸ばして、わたしを抱きしめた。
確かめるように力が徐々に強くなった。
「デイダラ…大丈夫」
どうか、静かな声に聞こえますよう。
うれしそうな声に聞こえませんよう。
小刻みに震えだした背中に手を添えた。
ねえデイダラ、こんなに優しく抱いてくれる手なんか今までになかったでしょう。
ごめんね、わたしうれしいの。
「デイダラには、わたしがいるよ」
伴侶を失ったあなたが最初に縋るのがわたしで、うれしいの。
「怖くないよ…」
彼に憐れみと、
神様、
どうかわたしに祝福を。
歓喜の歌
盛大なフィナーレは飾れない
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大昔、夢小説サイト開設して初めて書き上げたもの。恥ずかしくて目も当てられない出来なのですがどうもリンクを剥がせずにいる