逞しい肩の上をゆれているちょっと長めな髪をよけたら耳が出てきた。
白くて滑らかでむきだしの、赤ん坊のようにきれいな。
触ってもいい?とわたしが問うと、別にいいけど、と水月は笑った。
手が届きにくいよ、とわたしが言うと、水月は黙ってあぐらをかいて背中を向けた。
残雪の影と同じうつくしい色をした髪は、よけてもよけても落ちてきてその耳を隠してしまう。
すごくさらさらしてるんだね、とわたしが言うと、そうかい、と水月は一言だけ返した。
髪をすくって口づけた。生きていないそれはひんやりとしている。
吸いつくほどやわらかな耳朶を指の腹でなぞると広い背中がびくりとした。
耳は熱を帯びて、よかったこの人ちゃんと生きてる、わたしは嬉しくてそこにも口をよせた。唇だけで静かにはむ。水月は少しうつむいた。呼吸はつとめて緩慢だ。ひと息ごとに深くなっていく。
ためらいがちに舌を這わせた。びくん、もう一度、今度は肩がゆれた。
ごめんね驚いた?とわたしが心の中で問うと、水月の呼吸がしずまった。
くちゅ、くちゅ、我慢できなくてもっと欲しくて食べてしまいたくて耳朶の奥に舌をくねらせた。
気付いたら視界がぐわんと回って、背中が叩きつけられて悲鳴をあげて、屈強な腕のしたに組み敷かれたわたしは息を呑んだ。
きつい蛍光灯をバックに残雪がばらばらとはらはらと零れ落ちた。
水月、あなたの顔がよくみえないよ。




 
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