どさっ。
わたしの下で鈍い音がした。

勢いあまってデイダラを突き倒してしまったのだ。
わたしもいっしょに倒れこんだから、もとい、押し倒したわけだ。


「痛って…」
「ご、めん」
「はは。お前ってそんな積極的だったっけ、うん」


わたしの下敷きになって仰向けに倒れたまま、デイダラはご満悦顔で笑った。

本当はわざと倒れたくせに。

倒れずに踏ん張ろうと思えば彼にはそれができたことくらい、わたしにも分かる。
わたしはデイダラのかたい腹の上に跨がりなおした。


「デイダラ…女の子に攻められるのは嫌い?」
「そりゃーなぁ」
「じゃあ指輪、早く返しとかない?」
「てことは返さなかったら攻めてくれるのかな、うん。別に嫌いなわけでもねェーし、たまにはいいかも」
「信じらんない。攻められて喜ぶ男ってどうなの」
「情けないと思うかい? こんなでもお前の選んだ彼氏だぜ」


ほんとに憎たらしいったら!

わたしもただで引っ込むつもりはない。力ずくでも取り返したい。
指輪を握りこんでいる拳に手を伸ばした。

ところがデイダラはあっさりと、自らその拳を開いたのだ。


「え?」
「残念でしたー」


デイダラの笑顔がひときわ輝いた。

手中にあるはずの小さな輝きは、なかった。

一瞬頭が真っ白になった。
愉しそうに掌をひらひらと振るデイダラをねめつけた。


「どこにやったの、指輪」
「さーな。押し倒されたときに飛んでっちまったんだ」


デイダラは寝転んだまま肩をすくめて、苦笑する。


「……うっそ…」


予想外の出来事に戸惑うわたしは、指輪をくれるときの飛段さんの顔を思い出していた。

指輪が突然消えてしまったこと、少し、いや結構、ショックだった。


―なんだよ、お前デイダラちゃんと付き合ってんのかよ

二人で街に出てからようやく知って驚いていた飛段さん。


―かわいー後輩にかわいーカノジョができて俺ぁ嬉しいぜ、ゲハハハハ!


そう笑って言って彼は、


「……探さなきゃ!」
「うん?」


そろそろとわたしはデイダラの体から離れた。

急に真剣な顔になったわたしを見てか、デイダラは上体を起こしてきょとんとしている。

わたしは彼に背を向けて床にはいつくばった。


「おーい」


どうしようどうしよう。見つからないよ。


「あいつの指輪なんざほっとけ」
「嫌。探す」


―わたしには特別なプレゼントだったんだよ。
デイダラにはちょっと悪いけど、あれは宝物だった。


「…どうしたんだよいきなりー?」
「………」
「なあー。探しても無駄だと思うぜ?」


デイダラが呼んでる。
たぶんいま彼はあんまり笑ってない。


「おーい」


わたしは振り返らない。床に座りこんで部屋中に目を凝らす。
綺麗に片付けられてるけれど物が多くて、小さな指輪を見つけ出すことは難しいだろうと思った。


「…こっち向けよ、うん」


呼び掛けは静かに、なだめるような声に変わった。
手を掴まれる。

首だけ彼に向けようとしたところでもう片手も掴まれて、次の瞬間強く引かれた。


「っ、や」


何が起きたのかすぐには解らなくて、視界が大きく揺れて、

どん、
どこかで聞いたような鈍い音がして、陽に透けてさらさら光る明るい髪がわたしの顔にかかったところでわたしはようやっと状況を理解した。


「…いまの、痛かったな。手荒でごめんな」


わたしの上でデイダラは苦く笑った。
やわらかい手つきで髪をよけてくれる。


「なん…」


一瞬にして形勢逆転。
わたしに乗っかられるのがそんなに嫌だったのか。


「へへ。やましいことするつもりはねェーよ、うん」
「……」
「だけどこうでもしなきゃお前は話聞かねぇだろ」
「……かも」
「単に抱きしめただけじゃお互いの顔が見えねぇしなー」


それでわたしは押し倒されたわけね。

荒っぽい手段だけれど語る瞳は確かに真摯で、大人しくすることにした。

デイダラは眉を歪めてにししと笑った。
彼の肩越しの陽が眩しくてわたしは目を細める。
でも眩しかったのはそれだけじゃない。


「ゲーセンの景品がそんなに大切かい」
「……大切」
「それはどうしてさ、うん?」


彼はけぶるように目を伏せて顔を近づける。
そのちょっと切なそうな眼差しにぎくりとする。

鼻先をわずかに触れあわせて離れるのは、甘える仕草。

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