人間は嫌いだ。黴菌だらけで、汚い。不潔で気持ちの悪い生き物だ。それに比べて物怪は良い。黴菌なんて無いし、嘘も吐かない。醜い感情も欲望だって無い。綺麗な存在なんだ。
というような言葉の羅列を早口でまくし立てて、鏡花さんは押し黙った。
目を閉じて、白い手で頭を抱えた鏡花さんはまるで何かに怯える幼子のようで。
「…鏡花さん、人間はそんなに嫌いですか?」
「大嫌いだ」
「……私のことも嫌いですか?」
そう問えば、鏡花さんは瞼を押し上げて、青々とした若葉のような綺麗な双眼を私へ向けた。
「……嫌いだって言ったら?」
「悲しいです」
「…でも、泣かないだろ」
「たぶん。実際はわかりませんけど」
「………どうせ、アンタだって嘘を吐くくせに、」
押し殺すような声で彼は呟いて、再び両目を静かに閉じた。
その姿は何だかひどく痛々しくて、鏡花さんの孤独を痛いくらいに感じてしまって。
綺麗好き過ぎる彼は、この世界の汚さにいつか死んでしまうような気がした。
私はそれでも鏡花さんを抱き締めることすらできなくて、そんな自分に死にたくなった。
(世界の終焉で貴方は笑う)