毒されて、死んでいくというのなら 




愛してる。

そのたった一言が、俺は言えない。




「春草さんは、私のこと、好きじゃないんですか、」

ぼろり、と零れ落ちた涙。
嗚咽混じりの涙声に、心臓がぎゅうっと痛んだ。

「…なんで、」
「だって、だって春草さんは、」

蜂蜜色の瞳から零れる雫は止まることを知らない。
涙が彼女の柔らかな頬を滑り、顎を伝い、重力に従ってそのまま床に吸い込まれていった。

「だって、春草さんは好きって言ってくれないし、」
「………」
「私ばっかり、春草さんのことが、好きで、」

しゃくりあげながら紡がれる言葉。
その一つ一つが痛いほど俺の心臓を抉っていく。

「春草さんは、私のこと、好きじゃないんですか…?」

痛いな、いたい、痛いよ。
心臓が、張り裂けそうだ。

彼女の細い手首を掴んで、そのまま強く抱き寄せる。
華奢な身体は、すっぽりと腕の中に収まった。

「…もう、黙って」
「春草さ、」

赤い小さな唇に、噛みつくように口付ける。
彼女との口付けは、いつも涙の味がする。




愛してる。

そのたった一言が、俺は言えない。

だから、俺は口付けをする。
言葉にできないから、愛は語らず、彼女や自分を誤魔化すために。


ああ、なんて最低で最悪で最高の愛の表現なのだろう。



(だけど、それでも君は俺が好きなんだ。悲しいことに)
 
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