すん、すん、と。
静かな部屋の中に、彼女の啜り泣く声だけが響きわたる。
「…いい加減、泣き止みなよ」
「もう私のことは放っておいてください」
蜂蜜色の両目からぽろぽろと涙を零して、彼女は言った。
俺がそのまま押し黙れば、彼女は鼻を鳴らしながら小さく呟いた。
「……どうして、私だけなんですか、」
何が、と問うても彼女は何も答えない。
ただひたすらにその綺麗な瞳から、綺麗な涙を流し続ける。
「……私は、いつも独りなんです、」
「…どうして。君は一人じゃないだろ。鴎外さんだってフミさんだって、俺だっているのに」
「違う、違うんです」
俺の言葉に彼女は首を横に振るう。
「……独りは、さみしい、」
俺は彼女に対して怒りにも似た気持ちを抱いていた。
彼女は決して一人ではないのに。
俺にもその悲しみを分け与えてくれればいいのに。
だけど、普段の彼女からは想像できないような姿や涙を見て、彼女の果ての無い孤独と痛みを感じてしまって、俺は何も言えなかった。
なんだかどうしようもなくて、やるせない気持ちになって、俺は彼女の涙を拭うことすらできなかったのだ。
あの日から少し経って、彼女は満月の夜に姿を消したまま帰ってこなかった。
たぶん、彼女は今もどこかで独りで泣いているのだろう。
(できることなら、君の孤独に寄り添いたかった)